第4話 開発者


「――ざまぁないわね! ミラ!」


 王宮の出口に向かって歩いていると、そんな声が掛けられた。


 いやもう王宮に用事はないからとっとと帰りたいんだけど? ウンザリする私だけど、名前まで呼ばれて無視するわけにもいかないので渋々立ち止まった。


 振り向いた先にいたのは、貴族学園で同級生だった

 かつて太陽の光を反射してキラキラと輝いていた金髪はくすんでしまい。多くの男性を魅了した美貌にはもう隠しきれないほどの皺が刻まれている。


 対する私は、外見年齢十代後半のまま。

 人間とエルフ。

 種族の特性とはいえ、時の流れの何と残酷なことか。


 それは当事者である彼女――ライラこそ身にしみているのだろう。私の顔を見て憎たらしそうに顔をゆがめてきた。


「ふん! 人生を賭けて獲得した『大賢者』の地位を、私が作った人工妖精に奪われた気分はどうかしら!?」


 そうなのだ。

 彼女は在学中から人工妖精の研究を始めて、数々の困難や妨害に遭いながらも人工妖精を完成させたのだ。


 その努力。その執念。素直に素晴らしいと思っている。前世の私では比較対象にすらなれないほど、凄い人なのだ。


 と、私としては裏表なしに評価して、尊敬しているのだけれども。どうやらライラとしては私の態度が気にくわないらしい。


「ふん! 悔しくて声も出せないってところかしら!? 人工妖精が完成した以上、もうあなたはこの国に必要とされていないのよ!」


 なんだか勝手に息を切らせながら、ライラが不敵に笑ってみせる。


「そうそう、王太子殿下があなたを呼んでいるわよ。あなたがどんな醜態を見せてくれるか、今から楽しみだわ!」


 王太子殿下。

 つまりは、私の婚約者。

 まぁ外見年齢は同じくらいだけれども、実年齢はかなり離れているので、正直言って良好な関係とは言いがたい。彼にしたって祖父母世代の女なんかじゃなくて、同い年くらいの女性と結婚したいだろうし。


 う~ん、とうとう婚約破棄かしらね?


 最近は別の女性と愛を育んでいるみたいだったから、タイミングを見計らって提案しようとしていたのだけれども。


 そんなことを考えていたら、茫然自失になっていると勘違いしたのかライラは高笑いしながら歩き去ってしまった。


 あ、人工妖精の問題点、指摘するの忘れてたわ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る