第3話 失業しました


 ――人工Admirable妖精Inteligencia製造計画。



 王国で数十年前から研究が始まった一大プロジェクトだ。


 神秘の結晶にして大自然の奇跡。人類に叡智と破滅をもたらすとされる妖精様を自分たちで作り出そうという身の程知らずな研究だ。


 私も『大賢者』として何度か研究に参加したけれど……なんというか、前世におけるAIみたいなものができあがっていた。妖精というか、学習して成長するプログラムというか……。


 ちなみにこの国ではアルファベットが普通に使われているし、度量衡はメートル・リットル・キログラムだ。たぶん建国王あたりが私と同じような転生者だったのだと思う。


 それはともかくとして。一人の人間の狂気によって作り出された人工妖精は次々に知識を吸収していき、最近ではとうとう王宮の大書庫にある本すべてをインプットしてしまったらしい。


 大書庫の知識を元にして、問えば何でも答えてくれる知恵者ジーニアス

 この国の歴史や、最適な魔術式、さらには天気の予報に至るまで。開発者本人が、できないことなどいずれ無くなると豪語するほどの出来栄えだった。


 大賢者と役割が被っているなと考えていた。


 不安にならなかった、といえば嘘になる。

 もしかしたら前世のようにまた仕事を奪われてしまうかもしれないと。


 で。

 その不安が今日現実のものになってしまったようであり。


「大賢者とはこの国で最も知識がある者に与えられる称号! 人工妖精が完成した以上、もはや貴様を『大賢者』の地位に据えておくことはできぬ!」


 そろそろ初老と呼べそうな国王陛下が玉座から立ち上がり、大仰な身振りで解説してくださった。


 まぁつまりは、クビということなのでしょう。


 前世と同じく、AIによる失職。

 でも、不思議と私はショックを受けてはいなかった。

 二回目ということももちろんあるだろうけど……何よりも、生まれ変わってから今までの人生に、今までの努力に、絶対の自信を持っていたから。


 この国が私をいらないというのなら。

 どこか別のところに行きましょう。


 どこででも生きていける自信が、今世いまの私にはあるのだから。


 …………。


 でも。

 人工妖精にはまだまだがあるから、せめてそれだけは指摘しておきましょうか。


「恐れながら、陛下――」


「言い訳無用! もうすでに決定したことだ!」


「…………」


 なんでこうは昔から話を聞かないのかしらね?


 先代国王には何かと恩があるし、エルフの長寿命を見込んで後見を頼まれた。けど、もういいかな?


 だっていきなりのクビ宣告だし。謁見の間で、わざわざ重臣を集めて、見世物にするかのようなこの状況だし。ここまでされて嗤っていられるような優しい人間にはなれなかった。


 あ、人間じゃなくてエルフか。


 まぁとにかく、クビになったのならしょうがない。もう王宮にいる理由もなくなった私は謁見の間をあとにしたのだった。


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