大晦日の大掃除@オチなし


  *


 大晦日の大掃除。


 それは、毎年恒例の行事である。


「お兄ちゃん、ちゃんとキレイにしてね」


「わかってるよ」


 今年で小学四年生になる妹は、まだ幼いながらもしっかり者だ。


 普段は生意気だが、こういった大掃除の時だけは、素直に言うことを聞いてくれる。


 ちなみに、両親はというと、俺が子供の頃から続く伝統だからか、はたまた子供より自分の方が大事だからか、『自分たちは忙しい』と言って、毎年手伝いもせずにそそくさと出掛けてしまうのだ。……まあ、俺もその意見には賛成なんだけどな。


 俺は両親と違って、可愛い妹をないがしろにするつもりはないし、むしろ積極的に手伝ってあげたいと思っている。なので、今年は去年よりも気合を入れて、隅々まで掃除しようと考えていた。


 まずは窓拭きからだ。


 この作業が一番大変だと思うが、だからこそやりがいがあるというものだろう。


 早速、雑巾を片手にガラス戸の前に立つ。


 すると、不意に後ろから声を掛けられた。


「お兄ちゃん、がんばってね!」


 振り向くと、そこには妹の笑顔があった。


「ああ、任せろ」


「うんっ! 応援してるからね!」


 妹がそう言うと、パタパタと足音を立ててどこかへ行ってしまった。きっと自分の部屋に戻ったのだろう。


「……よし、やるか」


 俺は気合いを入れ直すと、目の前のガラス戸に集中することにした。


 そして、いざガラスの汚れを落とそうと手を伸ばした時、またしても背後から声がかかった。


「あ、お兄ちゃん、まってー」


 今度はなんだ? そう思って振り返ると、そこには小さな箱を持った妹の姿があった。


「どうした?」


「あのね、これあげる」


 そう言って差し出された箱の中身を見て、思わず目が点になった。


 なぜなら、そこにあったのは、綺麗にラッピングされたチョコレートだったからだ。


「これは……」


「えへへ、お兄ちゃん、いつもありがとう」


 照れくさそうに笑う妹を前に、俺は言葉が出なかった。


 まさか、こんなサプライズを用意してくれていたなんて……。


 俺は感動のあまり、目頭が熱くなるのを感じた。


「お、お前ってやつは……!」


「え、ど、どうしたの!?」


 感極まった俺は、思わず妹を抱きしめていた。


「ありがとな……! お兄ちゃん、嬉しいぞ……!」


「も、もう、お兄ちゃんったら、おおげさだよ~」


 口ではそう言いつつも、まんざらでもない様子で俺に体を預けてくる妹。


 そんな妹の頭を優しく撫でながら、俺は心の中で呟いた。


(来年もまた、こうして一緒に過ごせますように)


 そう願いつつ、今年の大掃除は終わったのだった。

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