わたしは本気だけど、あなたはどう?


  *


「――この学園に、わたし以上の美少女なんているわけがないわ!」


「いねえよ」


 俺は即答した。


 すると、なぜか、彼女は嬉しそうに微笑む。


「ふふっ、そうよねー? まあ、当然よね」


「おまえ、顔だけは、かわいいからな」


「…………っ!?」


「いや、その……なんか、すまん……」


「…………」


 なぜか頬を赤らめて、口をパクパクさせる彼女。


 そして、ぷいっとそっぽを向く。


「そ、そんなに褒めたって、なにも出ないわよ?」


「別に褒めてないんだが……」


 そう返すと、彼女はまたも不満そうにこちらを睨みつけてくる。


「……で、なんの用だよ?」


 俺が訊くと、彼女はハッと我に返る。


 そして、コホンと咳払いをした。


「え、えっとね……実は今日、あなたに大事な話があるの」


「話……? なんだ、それ?」


 俺が訊き返すと、彼女は少し間を置いてから口を開いた。


「あの……あなた、わたしと付き合ってみない?」


「……は?」


 思わず間抜けな声が漏れた。


 しかし、彼女は真剣な眼差しを俺に向けてくる。


「だ、だから! あなたと付き合うって言ってるのよ……!」


「…………」


 俺は、しばし沈黙する。


 そして――。


「はぁぁぁぁぁ!? お、俺とおまえがか!?」


 驚きのあまり、つい大声を出してしまった。


 すると、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らす。


「う、うん……ダメかな?」


「いやいや、ダメだろ……! なんで、そうなるんだよ!?」


 俺が訊くと、彼女は上目遣いで見つめてきた。


「それは……あなたが好きだからよ」


「す、好きって……」


「あ、もちろん恋愛的な意味でね」


 そう言って、彼女が俺の腕に抱きついてきた。


 彼女の柔らかい胸が当たり、鼓動が高鳴る。


「ちょ、ちょっと、離れろって……!」


「どうして? わたしのこと嫌い?」


「き、嫌いじゃないけど……」


「じゃあ、いいじゃない♪」


「でも、いきなり付き合うとか言われても困るんだよ!」


 俺がそう言うと、彼女はようやく腕を離してくれた。


 そして、しゅんとした様子で言う。


「ごめんなさい……迷惑だったわよね」


「いや、別に迷惑じゃないけどさ……」


「えっ、本当?」


 途端に、彼女の顔がぱあっと明るくなった。


 そんな彼女を見て、不覚にもドキッとしてしまう。


「お、おう……ただ、なんで急にそんなことを言い出したのか気になってな」


 俺が言うと、彼女はゆっくりと語り始めた。


「実はね、わたしって今まで告白されたことなかったのよねー」


「へえ、意外だな」


「それでね、この間友達に言われたのよ。『あなた、性格はともかく、顔はかわいいんだからもっと積極的にならないと』って」


「あー、なるほどな」


「それで、わたしは思ったわけよ。このまま、なにもしなければ、ずっと彼氏ができないんじゃないかって」


「まあ、そうだな」


「そこで考えたの。それなら、いっそ誰かに告って付き合っちゃえばいいんじゃないかなって」


「……つまり、俺に告ったら付き合えると思ったってことか?」


「そういうこと♪ だから、あなたにお願いしたってわけ」


「うーん……」


 俺は、しばらく考え込む。


(こいつの言っていることは、わかるんだけどなぁ……)


 しかし、俺には、ひとつ気がかりなことがあった。


「なあ、ひとつだけ訊いていいか?」


「なにかしら?」


「なんで俺なんだよ? おまえなら、ほかにいくらでも相手がいるんじゃないのか?」


「んー、まあ、そうね。確かに、この学園には、あなたよりも顔の良い男なんてたくさんいるわ」


「だったら――」


「――でもね、わたしが付き合いたいって思うのは、あなただけなのよ」


「えっ……?」


「ほかの男子を見てもなんとも思わないし、むしろウザいとしか思えないわ」


「そ、そうなのか……」


 なんだか、少し照れてしまう。


 すると、彼女はニヤリと笑った。


「あら、もしかしてわたしに好かれて嬉しいのかしら?」


「べ、別に嬉しくなんかねえよ! ていうか、おまえは俺のこと好きなのかよ?」


「ええ、大好きよ」


「っ!?」


 突然の言葉に、顔が熱くなるのを感じた。


 そんな俺を見て、彼女は、くすくすと笑う。


「わたしは本気だけど、あなたはどう?」


 そう、小さく、つぶやいたのだった。

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