第6話 日ヒ国防計画

西暦2025(令和7)年9月3日 日本国東京都


「現在自衛隊は、第4師団を基幹とした占領部隊がリスヴォアを中心に、周辺都市及び地域の制圧を進めており、現地住民からは食料を中心に買い取っております。多くの住民は貴族の圧政と不平等な暮らしに不満を抱いており、我らの平等な対応に対して一定の満足を得ている模様です」


 統合幕僚長の説明を聞き、大久保は小さく頷く。相手からすれば自分たちは『侵略者』である。なればこそ、相手から顰蹙を招く様な行為を戒める様に、現地部隊には厳命している。だが実際には、自分たちの行為は相手の悪事に比べれば些事に過ぎなかったのである。


「現地住民からの受け入れがすんなり進んだ事は良しとして、これから如何様に制圧を進めていく予定ですか?」


「はい。まずヒスパニア帝国軍の戦力は膨大です。リスヴォア占領時に取得した資料によると、陸軍は16個師団を有し、海軍も巡洋艦20隻を主戦力としているとの事です。が、先の戦闘でこの国の技術水準は知れました。運用さえ間違えなければ、我らは常に圧倒的優位を保ちながら勝利を得る事が出来ましょう」


「まず、リスヴォアの守備は第4師団が担当します。治安維持自体は普通科連隊のみでも十分に達成できますので、戦車隊と特科隊は都市外縁部に対する防衛線として運用する形となります。対する攻めの戦力としては、北部方面隊より第7師団を引き抜き、さらに富士教導団も機甲戦力として運用します」


「海上戦力と致しましては、引き続き第2護衛隊群を現地に展開し、現地に揚陸している地対艦ミサイル連隊と協力して敵艦隊を迎撃します。航空戦力としては第8航空団をリスヴォアに展開し、防空任務に徹します。敵航空戦力のうち、最前線へ爆撃を仕掛けてくる敵機は陸自の高射特科で対処し、陸自の戦力のみで戦線を押し上げる事となりましょう」


 陸上自衛隊唯一の機甲師団である第7師団と、機甲部隊の育成を主目的とする富士教導団には、銃火を防ぎながら兵員を最前線へ輸送する能力を持つ装甲兵員輸送車が多数配備されており、高射特科部隊も87式自走高射機関砲と93式近距離地対空誘導弾を有しているため、レシプロ機がメインの相手航空戦力には十分に対抗可能だろう。


「こちらはすでに相手の手の内を全て把握しています。常に油断する事無く先手を取り続け、講和の機会を確実に取りに向かいましょう」


・・・


ヒスパニア帝国西部 首都マドリディア


 日本側が戦い方を議論している中、ヒスパニア側も未知の敵対勢力に対する会議が執り行われていた。だが手持ちの資料は圧倒的に少なく、ろくに相手の事を調べもせずに戦争を吹っかけたため、対策など無に等しかった。


「ともかく数で押すしかない。こちらは徴兵者で兵士だけは十分にあるのだ。圧倒的物量で捻じ伏せるのみだ」


 会議室の場にて、皇帝はそう言い、僅かな軍人や閣僚は内心で呆れかえる。とはいえ皇帝も全くの無策ではなく、貴族も奪還戦に多数参加させる事で、味方の士気を向上させようと目論んでいた。


「我らの威光を、愚かな蛮族どもに見せつけるのだ!」

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