第11話 インヴェスト帝国

 「暁さんの言ってた機獣の組織で、最も強大な勢力となった組織が今のインヴェスト帝国だ。ここから北の大陸を全て支配している大帝国だ。」


 「ということは、王国よりも。」


 「王国の戦力もまた未知数ではあるが、現状普通にやりあえば負けるだろう。」


 「かつてゾーアという男の手により数多の組織が崩壊した。恐怖により、ゾーアに屈した者、強さに心酔した者など様々な人間がゾーアの元についた。それがインヴェスト帝国の誕生の歴史と言われている。」


 「そしてその帝国の中で選りすぐりの戦士8人、クラスA以上の機獣を宿す者で構成される帝王直属の隊 オルキヌスオルカ 。妖奇はその1人だ。」


 「帝王直属の、でもそんなやつがなんでこんなところに?」


 「さあ。わからねえよ。俺にも。」


 「……。東の機獣について、妖奇が色々と言ってた。」


 「!?」


 「東、あんたはあの妖奇すら追い詰めていた。あんたの力があれば、勝てるよ。」


 「……。う、うん!!」


 「さて、東のことについては後で詳しく聞かせて貰うとして、もう日が暮れる。今日はここで夜営だ。飯の準備しとくからお前ら、近くの池で適当に体洗ってこい。水質は大丈夫だろうよ。多分。敵が来たらすぐ教えろ。」


 「はい。」







 


 「ひっでえザマだな。黒崎。お頭に殺されるぞ。」


 顔に包帯を巻いた男が言う。


 「お前らと違って、俺は他所から来た人間だ。」


 「まあな。そういや妖奇も失敗したらしいぞ。」


 「は? あの妖奇が?」


 「ああ。あの例の少年の力でな。」


 「……。東生太か。」


 「まあ、ひとまず今日は退くぞ。お頭のとこ戻らねえとな。」


 「はいはい。」


 かつてカイたちが暮らしていた街は、ブラッドのアジトとして改良されていた。黒崎と包帯を巻いた男は西洋風の部屋に入る。


 「ヒョッヒョッ。遅いわ。」


 能面をつけた老人が黒崎と包帯を巻いた男にに対して怒る。


 「ちょっと遅れただけだろ。」


 「ちょっと? ワシみたいな年寄りにとってのちょっとがどれだけ大切だと思っておる?」


 「機獣いたら年とらねえんだし、年齢なんて関係ないだろ老害。」


 「なんじゃと。」


 2人が言い争うなか、黒崎が手を叩く。


 「その辺にしておけ、悪役令嬢様がいらっしゃったぞ。」


 「その言い方やめなさい。」


 ブラッドの頭である1人の少女が部屋に入る。


 「黒崎、あんたはともかく妖奇まで敗走ってどういうことなの?」


 「フフッ。それについては今からゆっくりお話しましょう。」


 「負け犬の癖に、どうしてそこまでお頭に対して強気なんだ?」


 「まだ、初日じゃない。それにまだ動いてない人が1人。」


 妖奇は白装束の男を指差す。妖奇が指差すまで誰1人として男の存在に気づかなかった。


 「ねえ。白猫。」


 「ハクミョウ? 聞いたことない名前だぞ。」


 「そりゃそうでしょうねぇ。白猫。」


 「勘違いするな。俺はお前に協力するためでなく、俺の目的でここに来ている。力になるかはわからんぞ。」


 「あら、そう。」


 「別に私もあなたたちのことは信用なんてしてないわ。私はただ、私らしく優雅に戦うだけよ。」


 少女はうっすらと笑みを浮かべる。


 







 翌日のことであった。カイたちのいた場所から少し東の戦場では、ブラッドの罠により、包囲にあってる班があった。


 「た、助けてくれ。助けてくれ!!」


 1人の男が武器を放して泣き出す。


 「おい。泣くな。立て。」


 仲間の1人が男に手を差しのべる。


 「ブハハッ。戦士が情けないなぁ。」


 ブラッドの幹部の1人である小太りの男が泣き出した男を笑う。


 「俺だって、最初は死ぬ覚悟はできていた。これは、戦争だ。だが、浮かれていた。ずっと生き残って、生き残って。いつしか自分は死なねえと思い込んでいた。生き残るのが当たり前だって。」


 男は完全にうずくまってしまった。


 「遺言は終わりか? フンッ。殺せ。」


 小太りな男が命令を出した瞬間。無数のブラッドの戦士が男たちに襲いかかる。


 「泣くな泣くな。もう大丈夫だから。目を開けろ。」


 長身で千夜の軍服を着た男がブラッドの戦士たちを切り刻む。

  

 「あ、あなたは、もしかして、えっと、」


 「暁彩葉だ。ったく、隣の戦場まで泣き声響いてたぞ。」


 暁は自分の肩をさすりながら言う。


 「どういうことですか? わざわざ俺たちなんか助けに来て。そんな余裕あるんですか?」


 「ああ。ある。だから助けに来た。」


 暁は両手に持った黒刀で敵を切り刻んだ。そしてすぐに小太りな男に接近する。


 「こちら、モートン。至急援軍を。」


 「援軍なんて寄越したって無駄だ。相手が俺だからな。」


 暁は小太りな男の首を落とした。そしてすぐにコアを破壊した。


 「つ、強え。これが千夜最高戦力。あの人がいれば、俺たちは、」


 「いや、暁は信用できん。」


 泣いていた男に手を差しのべた男がそう言い切る。


 「え?」


 「確かにあの人の力は凄まじいが。あいつは力だけだ。信念がない。なんせあの男、機獣に故郷潰されて親まで殺されているのに、機獣に対して何も怒りを感じてないそうだ。」


 「ちょっとあんたたち。今、暁さんのこと何て言った?」


 ソラが男たちに怒りを向ける。


 「ああ。誰かと思ったら暁の強さに守られ育った金魚の糞じゃないか。」


 ソラは息を飲んだ。そして機獣の力を出した。


 「ちょうど、暇してたし。いいわ。相手してあげる。」


 「おい。味方同士で潰しあってどうすんだよ。」


 暁はソラの肩に手を置き呆れたように言う。


 「泣き虫の間抜け野郎は助かったみたいだし、先行くぞ。」


 「はーい。」


 暁とソラはビル街の奥に進んだ。


 「あ、ま、待て。誰が間抜けだ。」


 「なるほど。あれが暁彩葉。」


 白猫は鉄のビル街の奥へと進んでいった暁を見つめてうっすらと笑みを浮かべた。

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