第10話 陽動

 「正気かよ。お前、」


 「……。」


 ヴィオラは全身にカイの熱を纏った。


 「あ、熱いけど。焼けた先から私は再生できる。クロの能力は使えないけど、」


 「作戦会議は終わり?」


 「ええ。」


 ヴィオラは妖奇に向かって駆け出す。妖奇の糸は全て焼ききれた。


 「駄目みたいね。なら。」


 妖奇は糸を使い、周囲の鉄塔を飛ばした。


 「まずは1人。」


 「よ、陽動は成功ね。」


 瓦礫の中から東とカイが飛び出す。


 「熱殺蜂手。」


 カイが右腕を妖奇に向ける。


 「影蝋。」


 東は妖奇に向けて剣を振り下ろす。


 2つの強力な熱により妖奇は倒れた。


 「はあ。早速とんでもないやつにぶち当たったが、なんとか勝て」


 カイの右腕が突然飛ばされる。


 「何!?」


 「フフッ。中々面白い。でもあなたはいらないの。」


 カイは糸で全身をズタズタにされる。


 「カイ!?」


 土煙の中から妖奇がもう1人出てきた。


 「糸で、分身を作ったのか。」


 「正解よ。まあ今喋ってる私も分身だけどね。」


 土煙の中から次から次へと妖奇の分身体が現れる。その数は18体。


 「分身とは言っても、全員、さっきのと同じくらいの強さがあるわ。」


 「そんな、」


 カイに続いて東も絶望により倒れ込む。


 「さあ。それじゃ他の2人はさっさと殺して、あなたの右腕を貰うわ。」


 「み、右腕……。」


 「東、」


 カイは弱々しい声で東に語りかける。


 「立て。今、動けるのは、お前だけだ。」


 「……。」


 東は立ち上がった。


 「フフッ。抵抗しても無駄よ。」


 「や、やってやるよ。」


 東は右腕を自分の前に出した。


 「何をする気?」


 東自身も自分が何をするのかわかっていなかった。


 「?」


 次の瞬間。東の右腕から黒色の煙幕が発生した。黒煙は妖奇の分身や糸を全て飲み込んだ。


 「な、なんなの。これ。」


 黒煙はあらゆるものを飲み込み、妖奇本体すら飲み込もうとした。


 「ここは一度、下がるか。ウッ。何故か急に、力が入らなくなってきた。」


 妖奇はその場を離れようとするが、何かに巻き付かれ、動きを封じられる。


 「これは、糸? 東の方から、そういうことね。東の機獣の能力は、機獣の能力を奪い取る。分身で使ってた分の機獣の力は吸収されたみたいね。でもまだ、完全に吸収はされていない。」


 「お前ら、大丈夫か!!」


 「カ、ロン、さん。」


 カロンの言葉に反応し、東は倒れた。そして黒煙は消えた。


 「能力をまだ使いこなせていない。フフッ。助かったわ。」


 カロンは妖奇の方を見る。

  

 「お前が、妖奇。なんでこんなところに?」


 「フフッ。気まぐれよ。」


 カロンは妖奇に剣を向ける。


 「せめて、相討ちくらいには。」


 「本当ならここであなたを殺してやってもいいんだけど、そこで倒れてる子たち思ったより強くて疲れちゃったから、ここはお暇させて貰うわ。」


 「待て!! お前、東で何を企んでる?」


 「フフッ。簡単に言えば、世界征服。」


 「何!?」


 「じゃあね。」


 妖奇は無数の糸と共に姿を消した。






 

 「カイは、大丈夫なんですか?」


 東がカロンに聞く。


 「ああ。問題ない。機獣を宿した人間はコアを破壊されない限り再生できる。嬢ちゃんほど早くはないがな。」


 「……。にしてもお前ら、よくあの妖奇と戦ったな。」


 「妖奇。あいつは一体何者なんですか?」


 ヴィオラはカロンに渡された布を纏いながらカロンに訪ねる。


 「妖奇は、盗賊団のやつじゃねえ。帝国の人間だ。」


 「帝国?」


 

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