オークのキ○タマ3

 後々の計画を立てるのに今回は紙とペンを使ってやろうと思う。

 きっと紙とペンも大喜びだ。


 そして机の前を通り過ぎてクローゼットを開ける。

 中を開けてみると服の数は少ない。


 外に出ないのだし使用人にバカにされることを除けば特に服なんてなくても困らなかった。

 クローゼットの下にある引き出しを開くとそこには宝石箱。


 開くといくつかの宝石。

 体面を気にして贈られたものや母親の数少ない遺品。


 しかし記憶にあるものよりも少ない。

 まあ遺品など持っていても飯も食えないことは分かっている。


 売ればいくらかにはなる。

 つまりは多少の金銭的価値はあるということ。


 前回の生ではただ失っただけで何も得られるものがなかった。

 今回は違う。


 その価値分の代償ぐらいは払わせてやる。

 宝石箱を持ってベッドに戻る。


 布団をかぶせて宝石箱を隠してシェカルテを待つ。


「お食事お待ちしました」


 ベッドに寝転んでいると眠くなる。

 あとちょっと遅れていたら寝ていてしまったぐらいのタイミングでシェカルテが料理を持ってきた。


 温かくて、具もちゃんと入ったスープ。

 それだけで及第点。


 けれど一方で少し時間を置いてシェカルテも冷静になって怒りを覚えていた。

 なぜ自分がこんな目にあって虐げられなきゃいけないのか。


 冷遇されてみんなから疎まれている小娘の世話をしてやっているのは自分1人だけであるというのにとイライラが募ってきていた。

 アリアはそんなシェカルテが醸し出す不機嫌オーラを当然に分かっている。


 でも無視して平然と食事をとる。

 やはり少しばかり厳しくしないとすぐにつけ上がると思い直しながら。


「あっ、ちょっと拾っていただけます?」


 ほとんど食べ終えた。

 そんな時にアリアはナイフを落としてしまった。


 自分で拾えと内心舌打ちしながらシェカルテがナイフを拾い上げる。

 教育された忠誠心のある使用人なら慌てて新しいものを持ってくるのにシェカルテは拭きもしないでそのままアリアにナイフを渡す。


「ありが……とう!」


「ひっ!


 いっ……!」


 ナイフを受け取ると同時にアリアはシェカルテの手を取ってカートに押さえつけ、ナイフをシェカルテの手を目掛けて振り下ろす。

 わずかに手を逸れたナイフはシェカルテの小指の付け根を浅く切り裂く。


「手を動かすと小指がなくなりますわよ?」


 アリアの赤いオーラがナイフを包み込む。

 食事用のナイフなので切れ味はお察しだがオーラを使えば女性の指の一本ぐらい簡単に切り落とせる。


 手を引き抜こうとしたシェカルテの動きが止まる。

 見間違いかと思っていたのに見間違いじゃなかった。


 アリアはオーラユーザーである。

 しかもオーラをある程度コントロール出来ている。


「なな、何がご不満だったのでしょうか……」


 ズキズキと痛む小指。

 アリアがもう少しナイフを傾けると小指が切り落とされてしまう。


「お分かりにならなくて?」


 ニコリと笑顔を浮かべて少しナイフを傾けてみせるアリア。

 小指の傷が広がって血が流れる。

 

 その笑顔が怖くて、何を考えているのか全く分からなくてシェカルテは震える。


「お、お許しを……」


「何に対する許しを出せと言うのかしら?


 あなたはどんな罪を犯したの?」


「わ、私は……」


 シェカルテは罪を告白した。

 感情の見えないアリアの目を見て指ぐらい本気で切り落とすつもりだと察して思いつく限り懺悔した。


 日頃からアリアをいじめていたこと。

 顔を洗う冷たい水、残り物のような粗末な食事、あからさまな嘲笑、悪口の吹聴、軽い暴力。


 反省の弁を述べて許しを乞う。

 仮にやり直す前だったらそれで許していたであろう。


「本当に反省していますの?」


「は、反省しております!」


「それで全てなのですわね?」


「はは、はい!」


 アリアはシェカルテの手からナイフを離す。

 シェカルテはホッとした表情を浮かべる。


 手を掴んでいた手も離して……アリアはシェカルテの髪を掴んで引き寄せた。


「ふざけんじゃねえよ?」


「な、なにを……」


 今度は首にナイフを突きつける。

 せっかくまともな食事を持ってきたから少し我慢してあげたのにこの女は全く反省していないとアリアの堪忍袋の緒が切れた。


「あなた、その胸にぶら下げた無駄にデカい乳袋引きちぎって股間に移植して差し上げましょうか?


 きっとオークのキ○タマみたいで愉快でしょうね」


「ひっ……ななな、な?」


 令嬢の口から取り出したとは思えない下品な言葉。

 シェカルテは目を白黒させる。


「今すぐおじ様に言ってそのキ○タマで男に媚びるしかないような人生歩ませてやってもよろしいんですわよ!」


「何がおっしゃりたいのか……」


「知らないとでも思って?


 私にはおじ様からいくらか生活費が当てられているはずなのよ?」


「………………そ、それは!」


 たとえ冷遇されているとは言っても全く何もしてくれないのでもない。

 アリアの叔父はアリアに自由に使える金を送ってくれていた。


 しかしそんなこと幼いアリアは知らなかったし前世では叔父が死ぬまで聞かされなかった。

 じゃあそのお金は誰が使っていたのか。


「あなた……お金を横領してらっしゃいますわね?」

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