オークのキ○タマ4
耳元で囁くようにアリアが放った言葉。
途端にシェカルテの顔色が悪くなって呼吸が荒くなる。
アリアに何かした程度などまだまだ可愛いものだ。
勝手にアリアに割り当てられたはずのお金を横領して使っていたなど重罪である。
このことがバレると確実にクビ。
しかも貴族の家を追い出されてクビになんてなったら次に雇ってくれるところなんてない。
それこそアリアの言う通りシェカルテは胸を使った仕事をするぐらいしかなくなる。
「その目が見たかったのですわ」
生殺与奪の権利をアリアが握った。
昨日までのアリアとは明らかに違う様子に困惑し恐怖に怯えた目でアリアを見上げる。
背中にゾクゾクしたものが込み上げてアリアは思わず唇の端を上げて艶やかに笑う。
「それに……」
もはやシェカルテにはなんの選択肢もない。
アリアが手を放してもシェカルテはヘロヘロと床にへたり込んだ体勢でアリアを見上げるしか出来ない。
布団をめくり隠していた宝石箱を放り投げる。
宝石箱がシェカルテの前に落ちて壊れて中の宝飾品が散らばる。
それを見てシェカルテの目が揺れる。
「まあ大金持ちの中には一度付けたものは二度とつけないなんてお方もいらっしゃいますけど私はそんな贅沢を思ったことはありませんわ。
それにこの中にはお母様の遺品もあったはずですが……おかしいですわね?」
シェカルテの体が震え出す。
「その手癖の悪さ……おじ様が知ったらあなたはどうなるでしょうか?」
例えアリアが疎まれた存在であってアリアから盗んだとしても家中に泥棒がいるなんてことはどこの家でも許されざること。
クビどころか投獄の可能性だってある。
どんな態度を取ろうと、どんな状況になろうとアリアのことは容易くコントロール出来る。
少し優しくしてやればつけ上がるしこんなに楽勝な仕事はない。
そうやって先日メイド仲間と笑い合っていたはずだったのに。
「お、お許しください!
このことは何卒ご内密に……」
「ふふふっ、何を許すと言うの?
あなたの口から出たのは私に対する雑な扱いについてのみですわ」
正確にはまだシェカルテは罪を認めていない。
全部アリアの口からだけしか出ていない推測である。
言うなれば最後の砦。
自分の口から全てを認めればもう後戻りは出来ない道に足を踏み入れてしまう。
そんな感じがしてただ唇が震えるだけで声が出ない。
目の前にいる人物がただの少女ではなくて知らない化け物のようにすら感じられてシェカルテの思考力がひどく鈍っていく。
「それに……私は一度あなたにチャンスをあげた。
私に言わせる前にあなたの口から罪を告白するチャンスを」
ただ正直に話したから許すかというとそれは別問題である。
どの道話さなかったのだからもう関係もない。
「ど、どうすればお許し頂けますか。
お許しください!」
床に額を擦り付けてシェカルテが頭を下げた。
とても無様な様子だがシェカルテのそんな様子を見ても楽しくはない。
この期に及んでまだ許してもらおうとしているのか。
アリアは驚いた。
この女、非常に図太い。
執着する理由は知っているがここで諦めて罪を追及される前に出て行くと言わないその根性は嫌いではない。
「許しとはそれを得るに相応しい何かを持つものだけが得られるものですわ。
あなたは許しのために何を持ち、何を私にお捧げになって?」
アリアはゆっくりとシェカルテに近づいてそっと頬に指を這わせる。
まだ若いシェカルテの頬は柔らかく肌にはハリがあって滑らか。
ツツーッと指を下ろしてアゴ。
クッと持ち上げてアリアの顔に向けさせる。
なぜだろう。
シェカルテは妖しく笑うアリアをほんの一瞬美しいと思った。
シェカルテを威圧しようとうっすらと纏われた真紅のオーラがまるで咲き誇る薔薇を思わせるようで、触れてはいけないトゲに触れてしまったのだと息を飲んだ。
「ただし私も鬼ではありませんわ。
あなたが捧げるものが私を満足させるなら……ご褒美も差し上げますわ」
悪魔の誘いのよう。
ひどく痛む小指の傷も忘れて脳にアリアの言葉だけが染み込んでいく。
何を捧げればいい。
「さて、あなたは許しを得ますか?」
微笑みを残してアリアは手を離した。
名残惜しさすら感じるシェカルテは咄嗟に許しを乞うていた。
「全てを……一生の忠誠をお嬢様に捧げます!」
アリアが一言言えばシェカルテの人生は崩壊する。
もはや捧げられるものなんてシェカルテ自信ぐらいしかない。
今更忠誠を誓っても遅いかもしれない。
アリアが何に満足するのかも分からないがシェカルテは最後のチャンスにしがみついた。
「私が跪けと言ったら跪き、靴を舐めろと言ったら舐めるのですよ?」
「はい!
跪けとおっしゃるなら跪き、靴を舐めろとおっしゃるなら靴をお舐めします!」
再び頭を下げるシェカルテ。
アリアがその答えに満足するのか自信はなく、顔を見ることも出来ない。
実際靴なんて舐められても汚いだけ。
だがその心意気は買ってやろう。
「ふふ、いいわ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。
その答えに満足したわ」
ただシェカルテが一生の忠誠を誓ったところで心の底から信じることはない。
けれど今の幼い状態のアリアにとって自分の手足となって動いてくれる人は必要なのである。
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