未来と復讐許可証3

 想像していたよりも根の深そうな話に頭が痛くなりそう。


「カールソンは団長としての地位もありましたし多少の相手では足元に及ばない力もありました。


 団長になられるぐらいですから頭も悪くないはずですし、そんな人がダメだったのに私がどうしろと言うのですか?」


 仮にだ、たとえ仮に話を受けるとしてもアリアはただの令嬢だ。

 死ぬ前には家もなくなり令嬢どころか無一文の浮浪者にまでなった。


「それは君自身に考えてもらなきゃいけない」


「……結局人任せということですのね?」


「う……しょうがないんだ。


 正しい方法なんてなくて、行動によって次の瞬間の世界は変わっていく。


 こうしろって言っても1秒その行動を取るのが違うだけで結果も変わる可能性があるのさ」


 それに世界を正す方法が分かっていたならとっくにそうしている。


「だからこそ君なのさ。


 例え復讐や最後の嫌がらせだとしても瞬間的に君は世界を救うような正しい判断を下した。


 どんな手段でもいい。

 世界を救ってくれないか?」


「……どんな手段でも本当に構いませんの?」


「……う、うん。


 どの道どんな手段でも僕たちに止められる術はないからね」


「私が復讐を遂げて全員の息の根を止めてもよろしくて?」


「えっ……」


 ディラインケラは絶句した。


「私の言葉も聞かなかった王も私を捨てた王子も私を嵌めたケルフィリア教も私を魔女と罵った国民も……全て切り捨ててケルフィリア教をお止めしてもよろしいかお伺いしていますわ」


 笑ってる。

 アリアは冷たく笑顔を貼り付けて冗談にも聞こえる言葉を本気でその可愛らしい声で発している。


「こ、国民はある程度許してほしいかな?


 みんな殺されちゃうと結局魔王が目覚めるわけだし」


「じゃあ他の人は?」


「ま、まあ、結局君がやることは僕たちが介入したり止められることじゃない。


 君が復讐に走って血の道を進んでも止める手段はないよ」


「そう……ならお引き受けいたしますわ。


 この私が責任を持って愚か者どもに分からせてやりますわ。


 ……誰を利用しようとしたのかを」


「早速だけどいいかい?


 そこの扉を通ると君は過去に戻る。


 前回の生の記憶は保ったままだし魂に刻まれたレベルは維持される」


「魂に刻まれたレベルとはなんですの?」


「いくつかレベルの中には魂に直接刻まれたものがある。


 それは記憶と同じように魂に刻まれて、意図的にリセットしない限りはそのままなのさ。


 何のレベルなのかはちょっと制約があって伝えられないけどすぐに分かるはずさ」


「……まあいいですわ。


 説明不足なのは今に始まったことではありませんもの」


 いつの間にかアリアの後ろに大きな扉が出現していた。

 アリアが振り向くとアリアを受け入れるようにゆっくりと扉が開く。


「……本当なら全部伝えたいんだけどそれが出来なくてゴメンね。


 世界は君にかかって……」


「私は復讐に向かうだけですわ」


 世界なんて知らない。

 ただ生きるべき人は何人かいるし、死ぬべき人がくだらない魔王だかの手で死ぬのは納得がいかない。


 チャンスを与えてくれるというのならそのチャンス活かしてみよう。


「あなたは悪魔に片道切符を渡したのですわ。


 ですが見ていてくださいまし。

 流れた血の数だけ世界は救われるかもしれませんから」


 扉の向こうは輝いていて見えない。

 ためらいもなくアリアは足を踏み出して扉の光の中に吸い込まれていった。


「……本当にこれでよかったのですか?」


 ディラインケラの影が起き上がり、ヒトの姿になる。


「もう時間を戻す神具は限界だ。


 おそらくこれが最後のチャンス……もうあとはない」


「分かっているさ。


 でも国王も、王子も、騎士団長も、貴族も、あるいはケルフィリア教の偉い人だって世界を救うことに失敗した。


 今回は惜しかった。

 魔王は出現したけれどケルフィリア教は世界を支配できず、魔王にどうにか立ち向かおうとした。


 結果的にダメだったけどこれまでの物語とは確実に違っていたんだ。


 その転換点が彼女だ」


「ただの偶然だろう」


「ただの偶然で何が悪い?


 それに彼女は……どの世界線でも大体不幸になるんだけど中々面白いよ」


 ディラインケラが手を振ると空中に映像が映し出される。


「ある時はそのまま何もできずに死んでいく。


 でもある時はケルフィリア教の副主教を決死の覚悟で刺してみたり、ある時は第三王子と共に剣を持って戦った」


 映し出されたのはアリアの姿。

 それは何度も繰り返された世界の別の結末を迎えたアリアたち。


「時として怒って色々な場面の転換となることがある不思議な子。


 彼女はメインじゃないけどその場に変革をもたらすことが時々あったんだ」


「だからといって……」


「それにだ、もう主要な人物は回帰させてしまったからめぼしい人物もいない。


 なら彼女が全ての転換点となってくれることを願うしかない」


「1人につき1回という制約が恨めしいな……」


「しょうがないさ。


 人を過去に戻すなんて大それたことをするのも楽じゃないからね」


「……大丈夫か?」


「……僕もこれで力を使い果たした。


 どうか願わくば僕の代わりに彼女を見守ってほしい。


 しばらく眠りに……つくよ…………」


 ディラインケラの姿が透けている。

 死ぬわけではないと分かっているが力無く笑うディラインケラはそのまま消えて戻ってこないような不安を思い起こさせる。


 友に微笑んでディラインケラが消えていった。


「……そうまでして救う価値がこの世界にあるのだろうか」


 扉が閉じていく。

 アリアは回帰した。


 世界がどうなるかは1人の女性に託された。


 未来など神にも分からない。


 ただ、ただあの子に任せていいのものか。

 扉をくぐり抜ける時のアリアの黒い笑いを思い起こして不安になる。


「まあダメならまた世界はやり直すだけだ」

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