未来と復讐許可証2

「君は奇しくも世界を救ったのさ。


 美しい形ではないし荒れに荒れたけどケルフィリアが支配する世界にはならなかったんだ」


「だから、訳がわかりませんわ」


「君の最後の叫び……あれは魔女の慟哭なんて言われて醜い足掻きだと批判されていたんだ」


「……人の神経を逆撫でしたいのならお上手でいらしてよ」


「まあまあ。


 君の叫びは様々な影響を及ぼしたんだ」


 ケルフィリアを公然と批判することはケルフィリア教では禁じられている。

 軽く陰口を口にしただけでも四肢を裂かれるほど強く神を狂信していた。


 だからアリアがケルフィリアについてひどく罵ったことは大きな衝撃をもたらした。

 そして同時にこうも考えられた。


 アリアはケルフィリア教の信仰者ではないと。

 アリアがケルフィリア教の敬虔なる信者で死刑になるとしたらどうするか。


 おそらくケルフィリア万歳などと叫んだり批判するにしてもディラインケラのみを酷く言う。

 ケルフィリアを罵倒したアリアはケルフィリア教ではなく異端者ではなかった。


「それから第三王子が調査を始めたんだ。


 どうして君が異端者であったかのように見えたのか。


 誰がそんなことをしたのか徹底的に洗い出したのさ」


 アリアを隠れ蓑にして行動していたケルフィリア教はアリアを最後死刑にすることでそれまでの痕跡も隠そうとした。


「君のあの最後の叫びがケルフィリア教の綻びを作ったんだ。


 裏で画策していたことがバレてケルフィリア教は強硬手段に出た」


 エリシアの夫である第二王子はケルフィリア教にもう引き返せないところまで足を踏み入れてしまっていた。

 最初は知らなかったのかもしれないがもう知らぬ存ぜぬで押し切れるものではなくなった。


 国は大きく二分された。

 第二王子がクーデターを起こし王座を狙い、一度は王が倒れて危うきかと思われた。


「けれども第三王子が頑張ったんだ。


 第二王子を倒して国を取り戻し、国内のケルフィリア教と戦った。


 その後は他の国のケルフィリア教も立ち上がったりと世界中で混乱が起きるけれど王となった第三王子がケルフィリア教に対する旗印となって戦い、血で血を洗う世界の戦いはケルフィリア教が滅びる形で幕を閉じたのさ」


「そ……そんなことが」


「全てのきっかけは君のあの慟哭。


 魔女の慟哭はさらにその後ケルフィリア教の悪事を暴いた尊き聖女の告発と呼ばれるようになったのさ」


「尊き聖女……?


 はんっ、おかしい話ですわね」


 本当に鼻で笑ってみせるアリア。

 アリアにとっては魔女と罵倒されたのが昨日のことのようなのに素知らぬところで聖女と呼ばれても何も嬉しくない。


 けれどケルフィリアのせいでそんな血みどろの戦いが起きるだなんて思いもしなかった。

 アリアとて何の罪もない人が死んでいくことは可哀想だと思う。


「しかしその話が私に何の関係がありまして?


 ケルフィリア教を打倒できたのですから終わりでしょう?」


「……ケルフィリアとの話はそれで終わりだね」


「その面倒な含みのある言い方をやめないとお話聞きませんわよ?」


「ごめんなさい。


 ええとケルフィリア教は倒されたんだけどその過程で血が流れすぎた。

 人は減り、信頼することが難しくなり、正当な宗教でさえも力を失って疑われた。


 そして魔王が誕生したんだ。

 あまりに沈み込んだ世界の雰囲気に呼応して生まれた魔王。


 だけど人は戦争で疲弊していた」


 後は言わなくても分かる。

 人類は魔王に敗北した。


 結局のところバッドエンドに変わりがなかったのである。


「ケルフィリアが世界を支配しても血が流れるから魔王が出てきて人類はやられちゃうんだ。


 そして僕たち神はそんな未来を変えたくて努力している」


「何をしているのです?」


「1人。


 たった1人だけだけど記憶を持ったまま時間を遡らせて人生をやり直しさせる。


 上手く綺麗にことを収めてくれれば世界は救われるはずなんだ」


「それを私にやれと?


 他の人にお頼みすれば……」


「もうしたのさ」


「えっ?」


「もう他の人にやってもらって世界は何度も滅びた。


 誰も世界を救うことができなかったんだ。


 その人生によって違うけど君だって何度も死んでいるんだよ」


 力があったり権力や影響力があったりとふさわしい人ならもっとたくさんいる。

 アリアがそう思ったようにディラインケラもそうした人たちにやり直してもらっていた。

 

 立場も違うしやり方も異なっていた。

 けれど全ての人に共通する事項としてはみんな失敗した。


 最後にはケルフィリア教が力を持ち世が乱れて魔王が生まれた。


「君が死刑にされたあの時は黒騎士団団長のカールソンが回帰してどうにかしようとしていたんだ」


「カールソンって5年前に事故死した……」


「そうだね。


 彼も何とかしようとして失敗したんだ」


「失敗って……事故死だと聞いていますわ」


「事故死じゃないよ」


「そんな、まさか」


「彼は殺されたんだ」


「ウソ……」


 ぐらりと世界が揺れたような眩暈がした。

 黒騎士団の団長カールソンはアリアも知っている。


 見たことがある程度で人となりは話に聞いたことがあるものしか知らないが実直な人で高い実力を買われて実力主義の黒騎士団で団長まで上り詰めた。

 それなのに団長になって数年後に屋敷が大火事になってそのままカールソンは行方不明。


 火事で焼け死んだのだろうと事故死とされた。

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