2話
「はぁ……」
鍋を洗いながらため息を吐く。
「けほっ、花ちゃん、ん゛ん゛っ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。おばあちゃんこそおじいちゃんのこと見てあげて」
花江は疲れを見せないように笑顔で答えた。
最近、咳の多い祖母にこれ以上心配はかけたくない。
「そう……」
祖母はまだ納得していない様子だが、祖父に呼ばれ速足で駆けていく。
祖父は足が悪く杖をつく生活。祖母の手助けが必要な老々介護状態。
共働きの両親は遅くまで仕事のため、介護には参戦できない。
祖母の負担を少しでも減らそうと花江は家事や介護を一部だが肩代わりしている。
これらも花江の時間がない理由の一つだった。
「どうしようかな」
なべ底に少しついた焦げをがりがりとこそげ取りながら、考えるのは同人即売会。
果たしてどうすれば売れるのだろうか。
宣伝にはSNSが必須。
だがなにか変なことをつぶやいて、大変なことになったらどうしよう。花江は不安でしかない。
自意識過剰だろうか。
しかし最近は凡人でも炎上する時代だ。なんでもかんでも自己責任、自衛必須。
何かあっては遅いのだ。ただでさえ忙しいのにこれ以上ゴタゴタを増やしたくない。
石橋を叩いて叩いて叩いて叩いて、それでも警戒して得られる安心。
だからSNSを始めても鍵アカウントになるのはしようがないのかもしれない。
「でも、霧香ちゃんには悪いことしちゃったかな……」
花江に手を貸そうとしてくれたのに。
友人の好意に気づいていなかったわけではない。しかし花江は、友人の手を煩わせるのなら自分でどうにかした方がいい。そう考えている。
けれど、あの断り方は、嫌われただろうか。
心配させないようにあの言い方をしたけれど、他に言い方があったのではないか。
せっかくいろいろ考えてくれたのに。
もんもんと考える、花江の手元でごしごしと洗われる鍋は、とうの昔に焦げは取れている。
「そうだ、うまく売れたらお茶に誘おう」
「花ちゃーん」
名案だと手を叩いた花江を、祖母の声が呼ぶ。
なにか手伝いが必要なようだ。
その場を離れた花江。
入れ違いにキッチンに置いていたスマートホンに通知が届く。宣伝用に作ったアカウントへのフォロー申請が届いていた。
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