第30話、まだ裏があるならば
「ハハっ!この僕を殺せるのかいレンディス!」
「……殺す」
「ちょ!ここはアリシア様のお部屋ですよ!やるなら外でやってくださいまし!!」
魔術と剣のぶつかり合いが始まろうとしている中、そこから鬼の形相で怒鳴ってきたレンディスの妹、エリザベートが叫ぶようにしながら注意し、二人はそのままエリザベートに謝った後、外に行って戦闘を開始したらしい。
とりあえず関わり合いになりたくなかったアリシアは出て行ってくれたことに安堵した後、鼻息を露わにしているエリザベートにお辞儀をしながらお礼を言う。
「エリザベート様、ありがとうございます」
「いえいえ、例え悪魔だろうが、兄だろうが、アリシア様にご迷惑をかけるのでありましたら、いくらでも鬼になりますよ……お加減はいかがですか?」
「とりあえず大丈夫です……数日寝れば、回復すると思いますので」
「それなら、良いの、ですが……」
「……エリザベート様?」
頼りになりそうな感じのレンディスの妹、エリザベートがどこか恥ずかしそうな顔をしながら頬を赤く染めている。いつもと様子がおかしいエリザベートに首をかしげていると、両手で拳を握りしめた瞬間、エリザベートがアリシアに目を向けた。
思わず変な反応を見せてしまったが、エリザベートが真っ赤な顔でアリシアに発言した。
「あ、の!アリシア様!」
「は、はい、何でしょうか!?」
「そ、その……も、もしよろしければ、なのですが……」
「……はい」
「お、おお、お姉様と呼ばせてもらっても、よろしいでしょうか!!」
――実は許可なく本人が居る以外の場所で、そのように言っていたことはあります。
と、彼女は恥ずかしそうな顔をしながら同時に小声でそのように呟いた事を耳にしたアリシアだったが、一瞬何を言われるのだろうかとドキドキしていたのだが、その言葉を聞いてアリシアは静かに笑う。
レンディスの求婚を受ければ、エリザベートは義理の妹になると言う事は間違いない。それは、アリシアもわかっている。
思わずきょとんとした顔をしたアリシアは静かに笑う。
「……では、私もエリザベート様の事を『エリー』と呼んでも構わないでしょうか?多分、その方が親しみやすい感じが致しますよね?」
「は、はい!ぜひ『エリー』とお呼び下さいアリシアお姉様!」
「では、そのように……これからもよろしくね、エリー」
「ッ!!!」
アリシアが彼女の事を『エリー』と呼ぶと同時に、飲み物を持ってきてくれたアンナがアズールと一緒に居室に入った瞬間、そのまま後ろにゆっくりと倒れるエリザベートに気づき、急いで二人で彼女を支える構図が出来るのであった。
屋敷の外では激しい戦闘音が響いているなと思いながら、アリシアは何も見ないようにするのだった。
▽ ▽ ▽
一時間後、ボロボロの状態で現れたレンディスは顔についた泥を落とすようにしながらアリシアの部屋にある椅子に座り、そしてその隣には輝いている笑顔で宙に浮いている悪魔、ベリーフの姿があった。
結果として、案の定ベリーフの勝利だったらしく、レンディスの表情が不機嫌そうに見えてくる。余程負けるのが悔しかったのだろうと思いながら、アリシアはレンディスに声をかける。
「悪魔に、しかもあのベリーフに勝利したらすごいですよ、レンディス」
「しかしアリシアさ……いえ、アリシア。この男が悪いのです」
「ええー別に僕は悪くないよー?」
「……まぁ、その話は置いておきましょう。大体の話はベリーフから戦っている時に聞いたんですよね?」
「……はい、王太子が関わっている、と」
レンディスはあの王太子がやるだろうかと言う顔をしていた。アリシアも同様に同じことを考えていたので、レンディスの顔を見ると納得してしまう自分自身が居た。
しかし、ベリーフは嘘をつかない――真実しかしゃべらない事をアリシアは数年の付き合いでわかっている。二人はベリーフに目を向けると、彼は笑うようにしながら答える。
「間違いないと思うよ……まぁ、僕も正直信じられないけど、証拠はある」
「証拠?」
「見に行ってないからわからないけど、『契約』の話はしたよね?強制的に切ってしまったら、代償として体の一部にどこか『穢れ』のようなものがあるか、ケガをしているか……腕か、顔か、それとも足か、何か異変のようなモノがあれば、見ればわかるよ。まぁ、向こうにはリリスが居るから、リリスが王太子を見ればわかると思うよ」
同族の悪魔であるならば、きっとわかる――そう、ベリーフは言っている。アリシアはその話を聞いて、疑問を抱く
「あの……ベリーフ」
「ん、何?」
「リリスやベリーフは契約した人間を見れば、悪魔と契約しているって言うのはわかるの?」
「下級だったらわからないかもしれないけど、上級だったら多分わかると思うけど……」
「……」
「……アリシア?」
考え込むようにしている彼女に疑問を抱いたレンディス、そしてベリーフん二人が首をかしげている。声をかけたが反応はしなかった。
そして彼女は疑問に思ったことを、二人に向けて口にした。
「もし、王太子が契約しているのであれば……どうして、近くに居た義兄であるファルマ殿下は気が付かなかったんだ?リリスが隣に居ただろう?」
「ッ……!そ、れは……召喚していなかった、と言う事ではないのですか、アリシア?」
「半年前に殿下は王太子であるフィリップの前でリリスを召喚したって言う話は聞いた。それならリリスが気づくはずだけど……」
「……確かにそうだね。あの悪魔が言っていたことは嘘だった、って事かな?いや、でもそんなはずないと思うんだけどなぁ……」
「……」
半年前、アリシアがファルマの所に行った時に丁度リリスと一緒にいたため、軽く会話をした事がある。
その時にファルマは義弟であるフィリップにリリスを見せたと言っており、リリスも呆れた顔をしていながら笑っている姿があった。
『悪魔』の文字すら出てこなったのである。
「……まだ、何か裏があったら、ちょっともうついていけないんだけど」
アリシアは頭を抱えるようにしながら深くため息を吐き、そのまま窓の外に視線を向けていた。
それと同時に、アリシアは一つの事を決心する。
「……ベリーフ、今からリリスの所に行って、ファルマ殿下に伝言をお願いします。レンディス、軽く支度をしてください」
「アリシア?」
「え、どうするのアリシア?」
「――王宮に行きます」
彼女はそのように言うと、突然ベッドから出て、そのまま着替えを始めようとしたので、急いで慌てるように二人はアリシアを止めに入る。しかし、アリシアは止まらない。
上着を脱ぎ始めようとしている彼女に気づいた二人は急いでメイドであるアンナを叫ぶように呼ぶのだった。
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