第29話、背後に居た人物は?
あれから数分後、叔母であるシーリアが顔を出したと同時に言った言葉。
「数日ベッドから出てはいけない。良いですね?」
「…………はい」
「不貞腐れた顔しないの」
と、そのように命令されたため、アリシアは数日ベッドの中で過ごす事になった。その次の日に笑顔で突然現れた悪魔、ベリーフに思わず反応してしまった。
「おっはよーアリシア、元気?」
「…………おはよう、ベリーフ」
着替えようとして服を脱ごうとしていた時に、まるでタイミング見計らったみたいな感じで現れた少年の姿をした悪魔、ベリーフに一度驚いたような顔をしたアリシアだったが、すぐに脱ごうとしていた衣類の手を放し、いつもの笑みを見せながら挨拶をする。
ベリーフはそんなアリシアに対し、少し出るタイミングが悪かっただろうかと首を傾げつつ、近くにあった椅子に座って話しかける。
「元気そうだね、よかったよかった」
「……ベリーフ、君は私があのようになるのをわかって、魔術を行ったのですか?」
「いや、それは僕も予想外だったわー……人間に魔術を施すのは初めてだったからね、僕も反省しないといけない」
「それなら、良いのですが……」
あんな魔力酔いを、多分普通の人間がやってしまったら、きっと死ぬ可能性だってある。そのような前例が過去にあるからタチが悪い。
同時に、ベリーフはそれをかけるのが初めてだと言っていたので、今回は許してやろうと言う心を持ちながら、アリシアは一つ息を吐く。
「……で、ベリーフ」
「ん、何?」
「――傍に居た悪魔は、どうしたのですか?」
アリシアがそのように答えた瞬間、ベリーフはにやっと笑っており、言葉に出す事はなかった。アリシアはそれは、言葉に出してはいけない事だとすぐに理解し、再度深くため息を吐く。
ベリーフの事だ。消してしまった、と思っていいだろう。
正直、残してくれたらよかったのに、と考えたのだが、その考えが分かっていたのか、ベリーフが話しはじめる。
「残したところで、僕たちに害がある存在なんだよ?もし、その悪魔がカトリーヌに手を出したらどうするつもりなの?」
「よくやりました、ベリーフ」
カトリーヌの名前を出されてしまったら、もはや何も言えない。それに、確かに彼の言う通り、カトリーヌに何かあったら大変だ。
フフっと笑っているベリーフに対し、アリシアは少し頬を赤く染めながら不機嫌になる。
「悪魔は消してしまったけど、その代わり多分反動が来るよ」
「反動?」
「うん、悪魔と人間の契約を強制終了してしまったら、契約した人間はどうなると思う?」
「……それは、聞いたことなかったですね。召喚獣と悪魔は違うのですか?」
「うん、全然違う……それに、悪魔はこの世界では嫌われているからね」
アリシアは悪魔の契約については詳しくないので、召喚獣との契約と全然違うと言う言葉を聞いて少し驚いた。
「悪魔との契約は『命』との契約……悪魔と契約した人間は一生残らない『傷』が出来るんだよ」
だから僕と契約しなくてよかったね♡と嬉しそうに答えるベリーフについて、アリシアは青ざめた顔をすると同時に首を横に振る。
寧ろ、ベリーフ以上の悪魔となんて契約したくないし、確かに数年前契約するように声をかけられた事はあるが、その時も全力で拒否をした。拒否をして正解だったなとあの時の自分にお礼を言う。
今回、『消した』と言う事は、既にこの世には存在しなくなったと言う意味にとっていいだろうと理解したアリシアはベリーフに問いかける。
「反動の事は理解しました……一応契約者の名前を聞いたのですか?」
「うん、聞いたけど……まさかって思った」
「え、それは……」
「――自分の母親を簡単に殺しちゃうんだから、びっくりするよね?」
「……え?」
ベリーフのその言葉を聞いた瞬間、アリシアは驚いた顔をしてしまう。今、目の前の悪魔は一体何を言ったのだろうか、と。
自分の母親――つまり、ラフレシアの子供が彼女を暗殺した事になる。それを聞いた瞬間、彼女の頭に思い浮かぶのは、一人しかいない。そもそも、ラフレシアには子供が一人しか居ないのだから。
フィリップ・リーフガルト――ラフレシアが溺愛している一人息子。
「……ベリーフ、そ、れは……本当なのですか?」
「うん、本当。君の妹の元婚約者で、君がぶん殴った相手」
「な、ぜ……?」
「理由は聞かないまま、消しちゃったからわからないけど……多分、殴った事が理由じゃないと思うんだよね。それより前から動いているみたいだったし」
「……」
あのバカ王子である男が、もし婚約破棄前にそのような事を考えていたとなると、納得がいかない。
一瞬で最初に考えたのは、アリシアを憎んでいると言う理由だ。彼はフィリップを拳でぶん殴っている。殴られた仕返しに悪魔を呼び出し、自分を消そうとしていた。
しかし――。
「……何故、そのように思えたのですか、ベリーフ?」
「悪魔を殺す前にジッと見てみたんだけど、すぐに呼び出されたワケじゃない感じだった。魔力の流れと魂を見て、最低でも二年前に召喚されて契約しているね」
「……あなたが言うならば、そうなのでしょうね」
アリシアは頭を抱えた。まさか、その男の名前が出てくるとは思わなかったからである。
嫌な予感がする、と思いながら、アリシアはベリーフに視線を向ける。
「……ベリーフ、お願いがあります。私の命をかけてもいい」
「……へぇ、『原初の魔王』と呼ばれているこの僕にお願い事をするなんて、きっとアリシアだけだと思うよ。聞いてみようかな?」
「……妹である、カトリーヌと、友人のエリザベートの近くに居てくれる事は可能ですか?」
アリシアは考えるより体を動かす性格だ。それは昔から変わらない。
この力がある限り、大切な人たちを守る事が出来るかもしれないと思っていたからだ――しかし、流石に今回は計算違いな事が起きている。
アリシアやレンディスは自分で守れる力があるが、カトリーヌとエリザベートにはそのような力がない。だからこそ、アリシアはベリーフにお願いをする。
椅子に座っていたベリーフが静かに立ち上がり、ベッドに座っているアリシアに近づいていき、顔を近づけさせる。
「……それは、君にとっての『契約』?それとも『お願い』?」
「……あなたが味方にならない、と言うのはわかっているはずです。ですが、私には一番強い存在はあなたしか考えられない」
「……本当、アリシアの目はまっすぐで、綺麗だよね」
ベリーフはそのように答えると、そのまま彼女の髪の毛に手を伸ばし、髪が唇に触れる。
突然の彼の行動に驚いてしまったアリシアだったが、ベリーフはまるで済んだかのように、いつも通りの笑顔を見せた。
「とりあえずこれで良いよ。君の願いだしね……ただ、ちゃんと決着をつけてね」
「……ありがとうございます、『原初の魔王』、ベリフェル様」
「本名で言われるとくすぐったいからやめてよ、アリシア―」
軽くお辞儀をすると、恥ずかしそうに笑っていたその時だった。突然アリシアの部屋の扉が勢いよく開き、そこには長剣を握りしめ、その先をベリーフに向けているレンディスの姿があった。
レンディスの顔を見て、アリシアは気づく。
(……あ、これ途中から聞いていたっぽいな)
アリシアはそのように考えながら、とりあえず戦闘をするなら外でやってくれないかなと考え、布団に潜りこむのだった。
▽ ▽ ▽
「ぐわぁぁああああっ!!ぁあ、ぁああああ!!!」
一人、部屋の中で泣き叫ぶようにしながら、腕を抑えている一人の人物がいた。同時に彼は思い知らされる。自分と契約していた悪魔が、この世からいなくなってしまったという事を。
唇を噛みしめながら、未だに続いている痛みに耐えながら、一人の名を呟いた。
「あ、アリシア・カトレンヌッ……」
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