第21話、悪魔は真実を伝えに来る。
ベリーフ――目の前の少年の姿をした『存在』はアリシアにとって脅威たる存在だった。数年前に二度出会っている少年は、アリシアにとっては『敵』と認識してもいい人物なのである。
同時に、彼は『人間』ではない存在だった。
フフっと笑いながらアリシアの前に立つ少年に、今回の事はもしかしたらこの人物が関わっているのではないだろうかと、不安になる。
睨みつける視線を向けているアリシアに対しても、ベリーフと呼ばれた少年は笑っているだけ。アリシアに視線を向けて楽しんだ後、今度は隣に立つ、剣を向けている人物、レンディスに視線を向ける。先ほどの笑う姿から一変し、憎々しい顔を向けるように、レンディスに目を向けているのだ。
「やぁレンディス、相変わらず憎たらしい顔をしているね」
「貴様こそ、その顔今すぐ斬ってやろうか?」
「あはは!レンディスは面白い事を言うよねー僕の事斬れるものなら斬ってみれば?僕より弱いくせに」
「そうか、では試しに斬らせてくれ」
「やだよ、痛いもん」
「……」
「……」
笑顔で答える少年と、無表情で睨みつけている男性の姿――アリシアにとって、これも何度か見た光景でもあるのだが、同時に呆れてしまう程、アリシアはため息を吐く。
今の所敵意がないのはわかるのだが、それ以上に目の前の少年は何を考えているのかわからない。アリシアの嫌な予感がある意味で的中したのかもしれないと考えた。
ベリーフ――彼は、この世界で言う『悪魔』と言う存在。
ファルマ・リーフガルトが契約している『悪魔』よりも正直タチの悪い存在と言っていい存在なのかもしれないとアリシアは目の前の悪魔と出会うたびに思う。
出会いは数年前――レンディス達とある討伐依頼を受け持った時に『彼』は現れた。
魔獣たちは何処か何かに怯えているように感じつつ、襲い掛かってきたのでいつものように討伐を行い、そして出会った。妖艶たる笑みを浮かばせながらアリシアの前に立ち、彼は答える。
『へぇ、君は『アリス』の娘なんだね』
と。
アリス・カトレンヌ――彼女はアリシアとカトリーヌの実の母親であり、アリシアにとってあこがれており、大切な存在の女性だ。既にこの世からいなくなってしまった大切な母親だが、今でもアリシアは彼女と言う存在を尊敬している。そんな母親とは知り合いだという事に驚き、目を見開く。
敵なのか、味方なのかわからない。しかし、敵意はない。
それ以上に、『悪魔』と言う存在のはずなのに、ベリーフは『異様』と言う存在なのだ。しかしその時、アリシアは目の前の男を『敵』だと認識する事が出来ず、攻撃する事が出来なかった。
ベリーフは語る。
『僕はベリーフ……ねぇ、君は『アリス』以上の魔術師になれる?』
何故そのように言ったのか、アリシアにはわからない。しかし、アリシアははっきりと目の前の『悪魔』に言う。
『……それが私の目標であり、私が目指す道だから』
超える事は出来ないかもしれない。しかし、アリシアにとって『アリス・カトレンヌ』と言う存在は、彼女以上の魔術師を望むために、越えたい目標の一つである。
ジッと見つめながら答えるアリシアに、何かを感じたのかベリーフは嬉しそうに笑いながら、そのままアリシアの頬にキスをする。
一瞬、何が起きたのか理解出来なかったアリシアだったが、ベリーフは楽しそうに笑いながら答えた。
『良い目をしているね。僕はそんな目をする女性は、大好物なんだよ』
フフっと笑いながら答えた瞬間、アリシアとベリーフの間に突然、大剣が現れる。当然、その大剣を持っている人物は、アリシアにとって知っている人物は一人しかいない。
視線を向けた先には、明らかにベリーフに殺意を持っているレンディスの姿が合って、その殺意を全身で受け取ったベリーフはあの笑いながら一変、殺意がある顔になる。
『君の近くにはこんな凶暴な狼が生息してるの?じゃあ、排除しても構わないよね?』
『え、いや、ちょ……』
『……アリシア様、この悪魔はアリシア様のお知り合いですか?殺しても構わないですかね?』
『い、いや、ちょ、ま……』
アリシアが言葉をはさむ事が出来ないまま、二人は突然戦闘を始めてしまい、その時はもうどうにでもなれと思った。
そして現在、何回目の戦闘が行われようとしている。
今回レンディスは大剣を持っていないので、普通の片手剣なのだが、対する相手のベリーフはアリシア同様の魔術を好む悪魔である。いや、そもそも悪魔は魔力が高いので魔術を中心に攻撃をしてくる種族だ。
ベリーフは敵でもなければ味方でもない、あくまでも中立の存在だとわかっている。だからこそ、何故彼がこの場所に居るのか確かめなければならない事がある為、アリシアはレンディスに声をかける。
「レンディス様、戦闘は控えてください……ベリーフに聞きたいことがあるので」
「しかしアリシア様……」
「そもそも私たちの目的は悪魔の討伐ではありません」
「……」
残念そうな顔をされたところで、アリシアは何もできない。おとなしく下がってくれたレンディスの前に立ったアリシアはベリーフに問いかける。
「ベリーフ、どうしてあなたはこの森に居るのか聞いても良いですか?」
「アリシアにだったらなんでも話すからどんどん聞いてー……まぁ、いうなれば、アリシアに言いたいとこがあって来たの」
「私に、ですか?」
「うん、性格にはアリシアと、嫌だけどレンディスにも」
「……何?」
まさか自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったレンディスは目を見開き、ベリーフに視線を向ける。
ベリーフはレンディスの事を毛嫌いしているからか、余計なのかもしれない。驚いた顔をしているレンディスに目を向けたベリーフは相変わらず嫌そうな顔をしていた。
「……アリシアが言う、女狐って、確か『ラフレシア・リーフガルト』って言う女だよね?」
「ええ、そうです。ラフレシア王妃様……いや、もうあんな女に『様』ってつけるのめんどくさいですね……まぁ、いいでしょう。で、そのめぎつ……いえ、ラフレシアがどうか致しました?」
「リリスとファルマから伝言を預かって、僕は二人の前に姿を見せた」
「え?」
リリスとはファルマの使い魔の悪魔であり、ファルマが最も信頼している存在であり、確かにリリスとベリーフはで同族だ。
まさかその名前が出てくるとは思わなかったので、驚いた顔をしているが、それ以上に信じられない言葉を口にした。
「死んだよ、自分で毒を飲んでね」
「……は?」
その言葉を聞いた瞬間、アリシアの頭の中が真っ白になった。
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