第20話、魔獣討伐開始
「――嫌な予感がするのは気のせいでしょうか、レンディス様?」
魔獣討伐の為に森の中を探索しているアリシアが静かに、ぽつりと言う。レンディスもそんなアリシアの言葉に耳を傾けながら、首をかしげる。
アリシア自身、どうしてそのような事を思ってしまったのかわからない。ただ、不安と言う言葉がアリシアの頭から離れないでいた。
普通ならばこの田舎にグレートウルフの群れなんて居るはずがない。逃げてきたのか、それとも――そのように深く考えてしまう自分が居る。
アリシアの言葉に反応したレンディスは警戒を解くことはないまま、アリシアの言葉に耳を貸す。
「嫌な予感とは……アリシア様の予感は時々当たるから怖いんですけど」
「それは……なんか、すみません」
「悪気があっていっているわけではないので、気にしないでください……でも、確かにアリシア様の言う通り、グレートウルフ一匹だったらまだわかるのですが、群れとなると気になりますね」
「……この地は季節的、寒い地域に入ります。しかし、グレートウルフは主に暑い地域に生息している事が多い……だから、こんな田舎に、しかも群れが来るなんて想定外なんですよね。そこは伯母上も言っていました」
資料を渡され、説明をされた時にぼやくように呟いていた叔母の顔を思い出す。何か厄介ごとに巻き込まれているのではないだろうか、と言う雰囲気も添えて。
同時に嫌そうな顔をしながら、アリシアはレンディスに目を向けた。
「……私って本当に、巻き込まれる体質なのでしょうか……」
「……」
アリシアの言葉に、レンディスは何も言えなかった。
彼女は確かに厄介な事件などに巻き込まれているのが多いなと感じつつ、慰めようとしたけれど、その言葉すら見つからないのである。
ため息を吐きながら頭を押さえているアリシアは、ふと今回の討伐の事と女狐であるラフレシアの事を思い出していた。もし、この二つが何かの関係で一つにつながったならそれはそれでありがたいなと思いつつ。絶対に無理な話なのだが。
とりあえず目の前の事を何とかしなければいけないと感じたアリシアは辺りを警戒し始める。
「……レンディス様、防御魔法が溶けそうになりましたら、言ってください。かけなおします」
「了解した」
森の中に入り、そろそろ1時間ぐらい立とうとしている。防御魔法はそれぐらいの時間になると消えてしまうので、確認をしながら進んでいくしかない。どうやらまだ続いているらしく、レンディスは催促をしてこなかった。
ゆっくりと奥に進むにつれて、レンディスが何かを思い出したかのようにアリシアに声をかけてきた。
「そう言えば思ったのですが、アリシア様」
「はい?」
「もし、討伐依頼が終わったら、『アリシア』と呼んでも構わないでしょうか?」
「…………え?」
突然何を言い出すのかこの男はと思いながらアリシアの動きが止まってしまう。そして徐々に顔が真っ赤に染まり始めていき、アリシアは言葉が出なくなってしまい、口をパクパクさせながら動かす。
レンディスの表情は変わらず、いつもの顔だった。こちらを向き、首をかしげながら話を続ける。
「出会った時から礼儀正しく『様』と呼んでおりました。もし、あなたが嫌でなければ、そろそろ呼び捨てで名前を呼びあう仲になりたい、なと思いまして」
――求婚もしているので。
真顔で、はっきりとそれを言ってきたので、アリシアの顔は崩壊しかけている。まさかそのような発言を言われるとは考えていなかったらしい。
しかし、確かにアリシアとレンディスはお互い礼儀正しく、『様』をつけながら話をしていたなと。
数年、アリシアにとってレンディスと言う存在は今はわからないが、大切な友人だと思っている。もしかしたらそれ以上の関係になるかもしれないと思いながらも。まだ返事をしていないので。
しかし、それぐらいならばとアリシアは恥ずかしそうにうなずいた。
「……で、では、終わったら、その、私は『レンディス』とお呼びしても良い、と言う事でしょうか?」
「はい、では俺は『アリシア』、と」
「……なんか、恥ずかしいです」
「そうですか?」
「きょとっとしているレンディス様がうらやましい……あ」
うらやましいと言った瞬間、アリシアはレンディスの耳の方に視線を受けると、そこには耳を真っ赤にさせているレンディスの姿があった。どうやら彼もアリシア同様に恥ずかしいらしい。
レンディスでも表情には見せないが、耳を真っ赤にすることもあるのだなと思いながら、思わず見た事のない一面を見られたアリシアが背を向けて歩き出し始めたレンディスに対し、フフっと笑っていた時だった。
「――やぁ、アリシア・カトレンヌ」
耳から静かに聞こえてきたのは、その時だった。
アリシアは急いで杖を手に召喚させ、声が聞こえた方面に振り下ろしたが、そこには誰も居なかった。その代わり、微かに嫌な空気がその場から纏っているのが分かる。
すぐに分かった。
その相手が何者かと言うのに。
レンディスもそれに気づいたのか、すぐさま剣を抜き、アリシアの前に出る。
そしてそこに姿を現したのは、一人の少年の姿だ。
フフっと笑いながら、アリシアに目を向けて、何処か楽しそうにしている。
「……ベリーフ」
「こんにちわ、アリシア……相変わらず君の眼は綺麗だね」
そのように告げた少年は、再度楽しく笑った。
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