第22話、正妃の不審死で疑われるのは?①


「死んだよ、自分で毒を飲んでね」


 その言葉は真実なのかどうかわからないが、アリシアが知る限りは目の前の悪魔は嘘をつく事はなかったはずだ。驚いた顔をしているアリシアに対し、レンディスも同様、彼女と同じように驚いた顔をしている。

 アリシアとレンディスは、正妃であるラフレシア・リーフガルトの事はわかっているはずだ。だからこそ、ありえないと思っていた。



「……ぜぇったいに、ありえない」

「右に同じくだ」

「うん、僕もそう思うよ。少なくともリリスとファルマが言うには、自殺する理由なんて全くないって言ってたよ。何せ、今の王妃様はアリシアの事どうやって亡き者にしようかなーって考えていたぐらいなんだから」

「それは一理ありますね……あなたの言う通り」


 ラフレシアは自分の死を望むよりか、アリシアをどのように亡き者にしようかと考えていたぐらい、そっちを優先していたのだから。そんな女が自ら自分の手で毒を飲んで死ぬのだろうか?

 考えて数秒、アリシアは答える。


「裏に誰かいますね。ラフレシアを殺したがっている人物たちは、結構いましたから……依頼されて殺されたか、ですかね?」

「ファルマが言ってたんだけど、最近『占い師』を週に三回ぐらい部屋に秘密裏に入れていたみたいらしいけど……アリシアは心当たりある?って言ってた」

「……生憎そちらの方面には心当たりはありません。最初に言いましたが、ラフレシアを恨む人物は相当居ました。私も結構嫌いだったので否定はできませんけど」


 アリシアがラフレシアの事をあまり好きではないと言う事は周りの人物たちは結構知っている。


「今の所自殺と言う形になってしまっておりますが、もし暗殺と言う事になったら真っ先に実行犯にされるのは、私でしょうね?」


 平然と答えながら居るアリシアの姿に、ベリーフとレンディスは思わず呆れていた。


 ラフレシアはアリシアの母親、アリスの事を憎み、恨んでいた。

 その分、アリシアは母親に似ていると評判だった。だからこそラフレシアはアリシアの事が嫌いだったり、アリシアもラフレシアの事は嫌いだった。

 今でも忘れられないあの目は、恨みがこもっている目だったし、同時にラフレシアは複数の男性との関係を持っている事を調べで分かっていたので、嫌悪してしまった。

 それぐらい、毒婦を毛嫌いしているアリシアは、ラフレシアの事は視界に入れたくなかった。

 ラフレシアが嫌いだという事はアリシアに関係している人たちは知っている。だからこそ、もし疑いをかけられてしまった時、きっとアリシアの名前が出るかもしれない。

 平然と、簡単に答えるアリシアの姿に、ベリーフとレンディスは少しアリシアに距離を取り始めながら話し始める。


「……ねぇ、レンディス。アリシアはどうしてあんなにも平然としているのかがわからないんだけど?」

「……あの人はいつもあんな感じだ。他人よりも、自分よりも、妹を優先する……もし、妹に疑いを向けられたきっと、いや、間違いなく動く」

「あー……相変わらずアリシアは妹大好きちゃんなんだねぇ……で、聞いたんだけど、君求婚したんだって?アリシアに?」

「……」


 ベリーフの言葉に、返事はなかったが、そのままそっぽを向くような形をとったレンディスに、ベリーフはジッと見つめ返す。それでも、レンディスは視線を動かすことなく、そらした状態で、それがベリーフにとって嫌だったのだろう。次の瞬間無理やりレンディスの両頬を鷲掴みするようにしながら、こちらに顔を向けさせた。

 グギッと言う音が響く中、レンディスは相変わらずいつもの表情――のように見えたのだが、明らかに動揺しているのは間違いない。


「昔言ったよねレンディス……アリシアは僕にとって、大切な人の娘だって。僕は君たちの味方でも敵でもない存在……だから、敵対しても構わないし、僕の事を嫌いになっても構わない。ただ、彼女を泣かせるようなことをしたら、その時は本気で君を殺しに行くって」

「……」

「まさかだけど、泣かせてないよね、レンディス?」

「……」


 レンディスはアリシアに視線を向けるが、すぐにベリーフに目を向ける。

 泣かせていない――はずだと思っている。


「――俺は絶対にあの人を泣かせない」


 まっすぐな瞳が、ベリーフの目に映る。

 先ほどまで無表情で何を考えているのかわからない相手だったのだが、アリシアの事になるとある意味余裕がなくなる性格だと言うのは、ベリーフも理解している。

 泣かせていない、と言う事は間違いないだろうと認識したベリーフはそのままレンディスから離れる。


「……それなら、君の言葉を信じるよレンディス。けど、もしそれが本当になってしまったら、僕は絶対に許さないからね」

「ああ……殺されないように気を付ける。少なくともお前に殺されそうになったらその前にお前を殺す」

「へぇ、言ってくれるじゃん……その言葉忘れないでよレンディス?」


 笑顔を見せながら殺気を見せているベリーフと、無表情な顔に戻ったのだが同じように殺気を出しているレンディス、二人のにらみ合いが続いている。

 そんな二人の事など気にせずに、アリシアは杖に魔力を少しずつ注ぎ、呪文を紡ぐ。


召喚サモン


 呪文を唱えた瞬間、足元から呼び出されたのがおなじみ、子供のフェンリルであり、アリシアと契約しているホワイトの姿だった。わふ、と言う言葉と共に現れたホワイトはまずアリシアの足元の所に行き、甘えているのか顔を摺り寄せている。

 アリシアはそんなホワイトを抱きかかえた後、まっすぐと自分と目が合うようにホワイトに顔を向ける。


「ホワイト、今回呼び出したのはお仕事です」

「わふぅッ!?」

「遊べると思ったのでしょうが、そうもいきません。とりあえずお仕事をしてください」

「わ……わん……」


 今にも泣きそうな顔をしているように見えるのは気のせいだと思いたいが、アリシアは心を鬼にしながらホワイトを地面に置く。

 名残惜しそうな顔をしつつ、ホワイトはアリシアに目を向けているのだが、今回ばかりはどうしようもない。とりあえず、アリシアはホワイトの目に負けないようにしながら支持を出す。


「グレートウルフは前回一緒に任務の時に戦いましたから、特徴的な匂いは覚えていますよね?」

「わんっ!」

「未だに気配は感じないのですが、もし、そのような気配を感じましたら私に知らせてください。今回の目的はグレートウルフの群れの討伐ですが……もし、それ以外のモノも感じたなら、知らせてほしいのです。出来ますか?」

「わんっ!ふーッ!!」

「……そうですね。終わりましたら遊びましょう。とりあえずもふもふを撫でさせてください」

「くぅーん……」


 ホワイトの可愛らしい仕草に負けてしまったアリシアは仕事が終わったら遊び約束をし、ホワイトの頭を静かに、笑いながら撫でる。

 嬉しそうに笑いながらホワイトが視線を向けた先に居たのは、レンディスとベリーフだ。二人はアリシアの行動に視線を向け、そして同時にホワイトに目を向ける。

 ホワイトは笑う。それは先ほどの笑顔ではなく、まるで二人を小馬鹿にしたような笑いで。


「……あのクソ犬、絶対に可愛くない性格してるでしょう?犬なのに猫被ってるの?」

「……駄犬が……アリシア様たちだけには演技しやがって」


 二人がそんな会話をしているなんて、アリシアは全く知らなかった。




 

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