第07話、レンディスの休暇と妹の決意
青ざめた顔をして入ってきた人物、ファルマ第一王子は笑いつつも、明らかに様子がおかしいことに気づき、レンディスは嫌な予感を覚える。
ファルマは笑いつつも、青ざめた顔をしてレンディスに声をかけた。
「え、えっと、とりあえず謝らせて、レンディス」
「……殿下、何かあったのですか?」
「あ、あのねぇ、実はね、義母上がどうやら暗殺者を数人送ったみたいで……だ、大丈夫だよね、あのアリシアなら……いや、寧ろこれは暗殺者達の方を心配するべき?」
「……」
引き攣った笑みを見せながら答えるファルマをこのままぶん殴ってしまおうかというレンディスの言葉が頭に過ぎるように感じつつ、彼が持っていた書類の束が床に落ちる。
拾う事もせず、一瞬動きが止まったレンディスに対し、再度声をかけようとしたのだが、声をかけることが出来なかった。
彼は愛刀である剣を握り締め、鞘を抜こうとしていたのですぐさま考えている事がわかったファルマが急いで彼の腰に抱きつく形を取りながら何とか必死に止めようとする。
「す、すまんレンディス!!俺が悪かったから頼むから犯罪者にならないでくれぇぇえ!!」
「すみません殿下、俺はどうしてもあの女狐をこの手で殺さなければならないのです」
「そんなはっきりと、そして真顔で言うな!真顔だから余計に怖いぞ!!お前も、アリシアも、本当に義母上が嫌いだなぁ……まぁ、わかるけど」
「俺は妹の事で余計に嫌いになりました」
「うん、そうだったな、悪い」
真顔ではっきりと答えるレンディスを何とか静止する事に成功したファルマは深いため息を吐き落ち着く。
しかし、殺気は少なからず残ってる。これは流石にまずいと認識にしながら、ファルマはレンディスに話を続ける。
「義母上の件は俺が何とかして見せる。だからお前はこのまま休暇を取れ」
「休暇、ですか?」
「妹と行って来たら良い。『療養』と言う名目でな……アリシアとアリシアの叔母、シーリア様に手紙は俺は出しておこう」
もう作っておいたと言う言葉を告げた後、ファルマは詠唱をする。
「
右手の甲にある魔法陣が光だし、そこから赤い鳥が出てくる。
ファルマはその赤い鳥に手紙を結びつけ、近くの窓にその鳥を放し、鳥は主人の命令通りに動き、アリシア達がいる田舎に向かって飛び立つ。
ファルマ第一王子、彼はこの世界では数少ない召喚師の一人である。
魔術も剣もはからっきしダメだったファルマは魔力があまりなく、唯一出来る事は魔物を召喚し、契約する事。
元々動物が好きだったファルマにとって、願ってもない職業でもあった。
周りから疎まれることもあったが、ファルマはそんな事気にする事なく過ごす事が出来ている。
それも、『彼ら』と言う存在が居たからでもあってーー。
「……まぁ、二日ぐらいで手紙が届くはずだから行ってこい。アリシアの事だから心配ないと思うが……まぁ、念のためだ。残っているのだろう有給?」
「ええ、一応……しかし」
「書類の残りは俺がやっておく。ほら、行った行った」
「……すみません、殿下」
心配、と行ってしまえば、心配なのだ。
しかし、あのアリシアだから、もしかしたらお得意の氷魔法で倒しているのかもしれない。
それでも、レンディスの心は晴れない。
レンディスは剣を鞘に納め、背を向けて走り出す。
まずは家に戻り、妹と話をして連れ出して、それから荷物の整理をしなければいけないーーと言う考えをしながら、家に向かって走り出していった。
「……さて、では俺は書類整理を終えたら、義母上と義弟の処理をしなければいけないな、うん」
面倒くさい仕事になるなと感じながら、ファルマは窓の外に視線をむけ、綺麗な青空を見ながら笑うのだった。
▽ ▽ ▽
殺されそうになったが、簡単に返り討ちにして二日後。
何もすることがなかったアリシアはいつものように庭に出て、魔術の練習を行っていた。
目を閉じ、しっかりと自分の魔力と向き合うようにしながら、右手に出している『
維持する事は正直アリシアは苦手だった。一つに集中しなければいけないので魔力の消費も激しい。
「……ッ」
辛いとわかっているからこそ、アリシアは力を使う。
維持する事は魔力の修行になるから、とわかっているからこそ、集中をしなければいけない。しかし、流石に限界だったらしく、『光あれ』は簡単に消えてしまった。
「……集中力が足りないのかしら?」
ため息を吐きながら、アリシアはそのまま地面に腰を下ろし、息を吐くように深呼吸をしながら、上に広がる空に目を向ける。
変わりない青い空は、本当に綺麗だなと実感しながら、アリシアは先ほど魔術を維持していた手に視線を向ける。
アリシアの手は綺麗ではない。男のようにゴツゴツしたような手で筋肉が少しだけ憑いているような感じの手で、令嬢のような綺麗な手ではない。
魔物の討伐や書類整理、人を殺す事だってやった、とても綺麗ではない手。しかし、レンディスはその手をしっかりと掴み、アリシアに告白してくれた。
こんな、汚れた手を。
「ッ……!!」
真っ赤に顔が染まると同時に集中力が絶対に足りてないと理解したアリシアはもう一度魔力の維持の訓練をしようと立ち上がると、突如アリシアの背後から声が聞こえた。
「お姉様!」
背後から聞こえた声は、妹のカトリーヌだった。
カトリーヌの声が聞こえたので、振り向くとそこには軽装した姿をしたカトリーヌの姿があり、いつもとは違う髪型にしている彼女に首を傾げながら、アリシアは彼女に声をかける。
「何かありましたかカトリーヌ……そんな、動きやすい格好をしながら?」
「お願いがあってお声を掛けさせていただきました」
「ええ、何?」
首を傾げながらその返事を聞こうとしたのだが、アリシアは少し恥ずかしそうな顔をしながら、ゆっくりと答えた。
「……お姉様、私に魔術を教えていただくことは可能ですか?」
恥ずかしそうに言ってきた妹の言葉に、アリシアは思わず目を見開いてしまうのだった。
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