第79話悪女は毅然と嘘をつく

マリアは貞操を守っているにも関わらずアイリーシャ(ウィルアムズ)に問われ否定しなかった。

それどころか本当にカイルと体の関係を持ったように伝えたのだ。


転倒事件のあった時もマリアはミラにより害されたアイリーシャの容態が気になったのだ。

しかし親しくもないのにお見舞いという名目でに部屋に出向いたら変に怪しまれると思ったのだ。


だから心にもない”謝罪”を理由にアイリーシャの様子を見に行ったのだ。

マリアは本当にミラが嫌いで友人と思ったことがない。

それ故にミラが犯した罪を心から謝罪するなどとんでもない話だった。 


またカイルにルチアーナとアルベルトの婚約を解消させるよう仕向けろと命じられたのは本当のことである。

 

だが婚約解消への作戦はミラが考え動いたことだった。

 

マリアがミラに黒魔術で絶対服従の呪術を使ったことはあるものの効力を使ったことは数えるほどしかない。

 

マリアが呪術をかけた時ミラに告げた言葉がある。

 

『ルチアーナ様の婚約者は…かつては…ウィルアムズ様…』


『ルチアーナ様ってばずるい…アルベルト様もウィルアムズ様も手玉に…だったらアルベルト様は私が貰っていい…』


実はこれは全てミラの心の声をマリアが口にしただけだった。


ルチアーナが大好きで友人だと言いながらミラは心の中では浅ましいことを考えていたのだ。

ミラはあまつさえルチアーナの代わりにアルベルトの婚約者になれるとまで思い込んでいた。


マリアはそんなミラだからこそ呪術を使わずにルチアーナとアルベルトの婚約解消させるよう依頼した。

もちろん少しでも変な動きをしたら呪術が発動すると脅しもした。


ミラは怯えているようだったがマリアには存外喜んでるいるようにみえた。


以前からミラはルチアーナに向けて『ウィルアムズ様って本当に素敵ですよね』『ウィルアムズ様と幼なじみなんて羨ましいです』とやたらルチアーナの婚約者でもないウィルアムズを褒めたたえるようなことばかり口にしていた。

純粋なルチアーナは言葉通り受け止めたが、マリアにはミラが渇望しているものがみえた。

 

ミラは”アルベルト”を欲している。



そうマリアも大概だが、ミラはミラで大嘘つきである。


 


マリアはもともと他人にどう思われようと気にしない性格だった。

だが何かしら事実を話したところで自分の話に誰も耳を傾けてくれないと決めつけているからだ。

それは彼女が幼少期に受けた苛めや虐待の経験から学んだある種の自己防衛である。


マリアは自分以外の人間を易々信じることはない。

まず他人から好意を向けられれば疑うことから始める


信じる者は救われない

穿った心は塞がらない

純粋は馬鹿を見る



マリアがいた孤児院は劣悪な環境の施設だった。

しかも気が付いた時にはマリアは苛めのターゲットとなっていた。

マリアは子どもたちだけではなく孤児院の職員にも冷遇されていたのだ。


マリアの着るものは常にボロボロで食べる物も一日一食あれば良い方だった。

お風呂もなかなか入れずにタオルで拭いて何日も凌いでいた。


マリアのいた孤児院は運営側が寄付金を使い込んでいたため酷い環境だったのだ。

今ならマリアにも理解できることだが当時は幼く無知でそんな考えには至らなかったのであろう。


マリアは孤児院にいた時に闇の精霊レヴァインと誓約を交わすことになったのだが、マリアにとってはそれは運が良かったと言うべきだろう。


マリアはレヴィインと出会った日のことを忘れたことはない。

その日はマリアの人生で生きることを諦めた日のことだったからだ。


マリアはまだ幼いながらも何もかも疲れてしまい渓谷へ身を投げようと決心した日だった。

震えながらも一歩また一歩と崖の端へ足を進めて行った。

 

すると突然誰かがマリアの体を軽々とを抱き上げたのだ。


『オイ、お前死ぬ気か?』


「…おいて(放っておいて)」


『大丈夫だ。俺が手を貸してやる。』


「…レ?(誰?)」


『俺は闇の精霊レヴァインだ。』


「ヤミ?セイレイ?」


『ああ、闇の精霊だ。強そうで格好いいだろ?』


「…らない(わからない)」


『そうか。まあ頭のイカレタ孤児院の人間よりも俺の方がよほどと思うぞ。ハハハ』


「…私を売るとか言ってたわ。」


『そうか、なら悪い魂は俺の好物だ。お前が俺と誓約してくれたらソイツらを美味しく食べてやろう。』


「…食べる?」


『何でも食べるわけではない。俺は穢れた魂がご馳走なんだ。だからお前を喰らう気はない。』


「でもみんなから私は穢らわしいって言われてる。」


『それは間違いだ。お前が穢れているならもうとっくに俺の腹の中だ。』


「ねえ、セイヤク?ってのをしたら私を守ってくれるの?」


「ああ、そうだ。約束しよう」


マリアは意味もわからず闇の精霊のレヴァインと誓約を交わしたのだった。


後日、孤児院の職員がマリアを奴隷として売ろうとしていたことがわかった。

だがある日忽然とその職員が姿を消した。

神隠しにあったとみんながうわさした。

マリアに危害を加える存在は孤児であろうと孤児院の職員であろうとお構いない。一人また一人と消えて行ったのだ。


そうこうするうちにマリアに意地悪をする人間は居なくなった。


だがマリアに近付くと悪魔に攫われると誰かが言い出したためマリアは孤立を余儀なくされた。

しかし孤立していて陰口は叩かれても食事を抜かれる事や直接嫌がらせをされることはなくなった。

マリアはそれだけで十分だと自分に言い聞かせた。


そして数年経った頃、新しい子どもが孤児院にやって来た。


親代わりに育ててくれていた祖母が亡くなり身寄りがなくなったという女の子だった。

孤児院で孤立していたマリアだったがその女の子とは歳も近いこともあり仲良くなったのだ。


その女の子は”サラ”という名で魔力のない平民出身であった。

マリアが孤児院を去った後、サラも数年後に平民の家に養女として引き取られたと聞き安堵した。


マリアは孤児院を離れてからもサラと手紙のやりとりを欠かさなかった。

二人はお互いの幸せを願っていた。



サラは平民の生まれだったがとても美しい容姿をしていた。

マリアはサラなら将来良い縁談に恵まれると信じていた。


義理の両親はサラが養子になってからそれなりに質の良い衣服や肌着をずっと買い与えてくれた。

しかも貴族でもないのに礼儀作法や勉強まで学ばせてもらえることになったのだ。


魔力なしのサラを孤児院から引き取ったことは善良な行為であるように思えた。 

しかしサラの義理の両親の真の目的はサラでお金を稼ぐためだった。

綺麗な服を買い与えたのも教養を施したのもサラという商品に付加価値を付けるためだった。

やはり身なりがよく上品な振る舞いが出来る娘の方が高い値で売れるからだ。


そんな義理の両親の思惑も知らずにサラは純粋に育った。

だが14歳を迎えた日の夜、母親に連れて行かれた宿屋で知らない男性に純潔を捧げることになったのだ。

変なクスリを飲まされサラはことの途中までしか記憶がなかった。

それから毎晩のように男の相手にさせられるようになった。

もし嫌がればクスリを飲まされるためサラは心を殺し受け入れた。

クスリを使い記憶が無くなれば何をされるかわからないからだ。

イヤイヤ抱かれても意識だけはしっかりと持ちたかった。


ちなみに国の許可なく体を売る行為は違法であり成人にも満たないことがバレれば別の罪も問われることになる。


どんなに屈辱的な行為を受けても魔力のないサラはどこにも逃げることが出来なかった。


サラの心の支えは綺麗な衣装を身につけられることだった。

サラは綺麗でいることを諦めなければきっと王子様が迎えに来てくれると信じていた。

それが非現実的な話だとわかっていてもそう思わなければ壊れそうな心を保てなかったのだ。


そんなサラの身にさらなる悲惨な運命が待ち受けていた。


それが輪姦事件だった。

それは裏で悪さばかりをしていた貴族グループの犯行だった。


グループの一人が若く美しい娘が秘密裏で体を売っているという噂を耳にした。

しかも法を犯している為、娼館の娼婦とは違い安い値で若く美しい娘が買えるとグループの男たちはその話題に喰いついた。

そしてそのうちの一人がみんな一緒にその娘の相手しないかと軽々しく提案したことが事の発端だった。


そのグループは金額を跳ね上げるといいサラの両親にそのとんでもない話を持ちかけた。

提示金額は通常の金額の20倍にもなったためサラの両親は喜んで首を縦に振った。


逢引の場所は一般的な宿屋では目立ってしまうためグループ内の独身の男性の家にサラを呼び出すことにした。

依頼主の一人が娘が逃げ出してしまうといけないからと複数の相手をする契約だということを秘密にしておくように命令したのだ


サラは何も知らずに用意された馬車に乗り指示された今回の依頼主の家に到着した。

到着すると使用人ではなく一人の若い男が出迎えてくれたのだ。

サラはその男と当たり障りのない会話をお茶を飲みながら交わした。

 

今回の内容を知らないサラは今日の相手は紳士そうだと油断した。


しかし男の出したお茶はただのお茶ではなく催淫効果のある媚薬入りの物だった。


気が付けばサラの体は自分ではどうにもならないほど熱を持っていた。

もちろん媚薬入りのお茶のせいである。


サラは目の前の男性の口づけを受け入れた。

もちろんそれがサラの仕事でいつも通りである。


だがしばらくすると部屋のドアが乱暴に開けられ続々と男たちが部屋に入って来た。

複数の男性に怯えるサラを羽交い絞めにし男たちは代わる代わるサラを犯した。

そんな行為が夜中から明け方まで続いたのだ。


薬を盛られたサラの体は異常だった。

大勢の男たちに囲まれ恐ろしかった。

サラは涙を流しながらも快楽に支配されそれに抗うことも出来ずに複数の男性と交わった。

無理やり犯されているにもかかわらずいつもより感度が良く声も抑えることが出来ない。

心は拒んでいるのに体は淫らな行為を欲しがり受け入れ体が喜んでいるのだ。

サラは心と体がちぐはぐな状態での行為に心が壊れていくのを感じた。


例えサラが国の認めた娼婦であろうと男たちがしたことは異常な行為だ。

複数の男性が一人の女性に性的行為を同時に求めることは神の冒涜とされ重罪である。


時間になりサラはようやく解放された。

男たちの欲に穢された肌着やドレスの代わりに新しく上質なドレスと肌着が用意されていた。

だがサラの壊れた心には響くわけもない。

サラは真新しい衣装に袖を通し手配された馬車に乗り自宅へと急いだ。



その後サラはマリアに手紙を出した。


そしてマリアはサラの身に起こっていたことを知ったのだ。

その手紙を見るまでマリアはサラが幸せだと信じていた。

そんな話聞いていなかった。

マリアは養子になったサラに数回会ったことがあった。

毎回、綺麗なドレスに身を包んでいて所作も貴族のように優雅だった。

それを幸せだと疑わなかった。

 

それが蓋を開ければ14歳から身売りをしていたのだ。

しかも義理の両親はもとから娼婦させるためにサラを養女にしたと聞き全身の血が沸騰しそうになった。


居ても立っても居られなずマリアはサラに会いに行った。

そしてマリアは復讐してあげるとサラに誓った。


まずサラの義理の両親は娘を売春婦のように扱っていたと通報したら早々に捕まった。

だが例の貴族グループのメンバーは罪を逃れたのだ。


金にものを言わせ罪を揉み消したのだろう。


 

マリアはカイルを利用し黒魔法の魔道具を作った。

レヴァインに協力を頼みサラに手を出した貴族の魂を一人ずつ食べてもらった。


レヴァインはそいつらの魂をとても美味しいと喜んで食べた。

だがようやくマリアが実行犯の貴族グループを始末した後、サラは謎の失踪遂げたのだ。


マリアはサラの失踪が到底理解できなかった。

その後、マリアが必死になってサラを探してはみたものの見つからなかった。


唯一の友人を失い残されたマリアは暗い空を仰いだ


《サラ、どうして?》



だがサラと再び出会ったのだ。

二人を再び引き合わせた場所はこのだった。

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