染まらず潔い君を:レオナルド・ジル・アルクフォード

ルシュアルという国の第一王子がおおよそ18年前に誕生日した。

第一王子と聞けば次期王に限りなく近い存在だと疑いもしないだろう

しかし彼には王位継承というものはなかった


何故なら王子は生まれた時に死ぬ日が決まったからだ

第一王子は厄介な呪詛をかけられたのだ

それも死の呪いという恐ろしいものだった


その呪詛かかけた者はもうこの世にはいない

呪詛の代償が呪術者の命であったためと聞いた

信じ難い話だが呪術者はこの国の王女だったのだ


王族には珍しく王は王女と恋愛結婚をした

側室も持たず王からの愛を王女が一身に受けていた。

しかし結婚後10年という月日が過ぎても子に恵まれなかった。


このまま王位継承者が不在では国民に不安や混乱をもたらすだけだ。

その後苦汁の決断を下した王は一人の側室を持った。

しかも半年も経たぬうちに側室は王との子を身篭ったのだ。 


嫉妬に狂った憐れな王女は側室のお腹の子に呪詛をかけたのだった


そしてお腹の子が生まれると同時に王女は息を引き取ったのであった


もちろんその事を民や他国に知られぬよう嘘で塗り固めた


その後に側室は正妃となった


側室から王女となったのが俺の母親である


母親も王である父親も初めは呪詛など信じていなかったと言った。


しかし死の刻印とされる呪詛の痣が成長するにつれて濃くなりそれを認めざるを得なくなったのだという。

生憎その痣は背中にあり普段は俺が目にすることはなかった。


その事実を俺が7歳の誕生日に20歳の誕生日を迎えると同時に死ぬ運命なのだと母親から泣きながら告げられた。


母親は必死になって俺の呪詛を解く為に国中から有能とされる魔術師をたくさん呼び寄せたが、その呪詛が解けることはなかった。

しかも自分自身はとても健康そのもので死を近くに感じることはなかった。

この呪詛は両親にあてつけたもので俺は苦しみながら死ぬわけではないという。

ただ時間が来たら突然動かなくなる。心臓が止まるのだ。


俺は限られた時間は楽しもうそう自分に言い聞かせた。


ある時、隣国の噂を耳にした。どんな呪詛も簡単に解いてしまう魔術師が存在すると…

そんな夢みたいな話を信じるほど純粋な心の持ち主ではない。


噂された国は大きな国土を誇るサデュカル王国だった。短期の滞在ならば簡単だが長期にわたるとなれば滞在は難しくなる。

しかし長期によって滞在が認められる正当な手段である留学という道を選んだ。


国立魔法学校の特別留学生は通常の留学生とは異なり一般生徒と同じ5年間は学生としての身分が保証されている。法に触れず人の道に外れた行いさえしなければ気楽な学生生活が送れる。

住む場所は学生寮があり個室が用意されている。寄付金額によって部屋のランクが異なり特別室という部屋数が多いものまで用意されている。

さらに金額を上乗せすれば改築の許可ももらえるらしい。

学校は国の税金と学校に通う生徒たちの親の寄付金によって成り立っていると聞いた。


都合の良いことに、留学生はファミリーネームを伏せることになっている。

俺の正式な名はレオナルド・ジル・アルクフォード



入学してしばらくした時に前にあった何かにぶつかった。

どうも前に人がいたらしいが気がつけなかった


ぶつかった相手は尻もちをついていた

体格差で吹っ飛んだらしい


申し訳ないと手を指し述べるさきに見える姿に目を疑ったのだ。

生徒ではない子どもがどうして学校に来ているのだろうか?と…

誰かの妹なのだろうか?

自分の手を掴む小さい女の子がいた


「どうかしましたか?」


自分の手を借り立ち上がった子どもを凝視した。

何故なら子どもは制服を着ているからだ。


「1年のアイリーシャ・ポーレットと申します。手を貸していただきありがとうございました。」綺麗なお辞儀をしてその場を去って行った。


《あれで同じ年齢?マジか?》


自分が身体が大きいこともあるが衝撃を受けた。


しかしその子どもは自分が今までに見たこともない整った美しい顔立ちだった。

顔を思い出したら胸がざわざわしてこの感情が何かわからなかった。


 ◆


しばらく子ども改めて女子生徒は同じクラスだったことがわかった。

 《ふーん、侯爵令嬢か》


その女子生徒は貴族だったが、身分などお構いなしに貴族も平民も分け隔てなく接していることがわかった。


《見た目は子どもだが中身はしっかりしているようだな。》


偶然にもその女子生徒は二年連続同じクラスになった。かといって半年ほど前までは得に関わることはなかった。

だが二年生の後期頃にその女子生徒はクラスで一人でいることが目立つようになった。

先日まで、よく笑っていた女子生徒はいなくなっていた。

なんだかそれを見ているととても嫌な気持ちになった。いつの間にか一人でいるその女子生徒を見過ごすことが出来なくなっていた。自分は存外とおせっかいなのだろうと解釈した。

自分の護衛兼お目付け役のカイトに言われるまで、この気持ちが何なのか見当もつかなかった。


「レオ様、それって●ですよ。」それに対して俺は「はぁ?何言っているんだ?失せろ!」と返した。


「令嬢のお母様はスタイルもよくお顔も美しいかたですので、将来は絶世の美女で間違いないでしょう。しかも令嬢のお母様は前王の弟君がお父様でいらっしゃいますし、高貴な血筋でいらっしゃいますよ。しかもまだ婚約者はいらっしゃらないようです。」


《そうか王族の血を引くものなら、母親も安心するだろう。》


俺は何を考えた?


俺はこのまま呪詛を放置すれば20歳で息絶える

誰か望んではいけない絶対に…


「銀髪です。」


「何がだ?」


「お探しの魔術師は銀髪と言われています。」


「そんな簡単に見つかるわけないだろう。」


「可能性はゼロではありません。」


「…ああ。」


 ◆


学校行事最大級と言われるサマーパーティーが間もなく始まる


受付を済ませ後に壁にもたれながら自分の心を探る


わかっている

本当は死にたくない

だからこの国までやって来た


生と死は繰り返す

生を受ければいずれは死を迎える

死すことは新たに生を受ける


ただそれだけのこと

幾度となく繰り返す


これはただの我が儘で


ほんの少し寄り添いたいと


無意識のうちに銀を探す

美しい銀髪の女性を…


ダンスくらいは許されるだろうか?

身体が密着させれば

自分の気持ちはどう傾くのだろう

萎縮するそれとも膨れあがる

それとも爆発するのだろうか


ああ、お伽話のように

君の口づけで

この呪いが解けたらいいのに

 


貴族令嬢らしき女生徒らの会話が耳入る。


『アイリーシャ様は体調を崩されてパーティーは欠席ですって…』


『残念ですわね。ではエスコートの方はどちらに?』


『今回はアルベルト様がエスコートでしたのよ。アイリーシャが不在であればルチアーナ様のエスコートでしょか?』


《なっ何だアルベルト?そいつは誰だ?》


『ルチアーナ様が羨ましいですわ。』


『アルベルト様はアイリーシャ様とルチアーナ様以外の女性には目もくれないですものね。その温度差が魅力ですけれどね。アル様素敵…』


『そういえばセイライト様がルチアーナ様のエスコート予定だったのでは?』


『セイライト様がお一人では?これはチャンス?』


『ならあなた誘って来なさいよ?私はウィルアムズ様一筋です。生徒会だからって裏方にまわるとか本当に罪な方。』


『ウィルアムズ様は婚約者がいないからパーティーに参加したらダンスを申し込む令嬢でそれこそパニックになるわよ。』


『どうしてウィルアムズ様ったら婚約者がいらっしゃらないのかしら、私たちに夢を与えて下さっているかも知れないわ。ああ、もう尊い…』


そんな会話を耳にした目サマーパーティーの会場を早々後にした。


俺は何も考えずすぐに彼女の元に向かった。

気が付けば彼女の寮部屋の前まで来ていた。


しかし体調が悪いとその日は侍女に門前払いをくらった。

しかし次の日も、またその次の日も

ようやく彼女の姿を見ることが叶った


俺は目を疑った。


話が違う

どう見ても体調不良ではない

ケガだ

それもかなり重傷だ。


彼女を覆う包帯の面積に再び

怒りが湧いた


この美しい銀を赤で染めた何かに

無性に苛立った


そしてただならぬ視線を浴びながらポーションを渡し呆気なく退散した


レオナルドはアルベルトが向けた鋭い視線を感じ我を知った


あの視線は嫉妬だ

自分が純粋な友人なら笑えるかもしれない

しかし何故かあの瞳に負けたくないと思った時点で

すでにもうあの銀に心を奪われていることを

認めるほかない


後日カイトの報告でアルベルトはアイリーシャの血縁関係のない義兄であると聞くこととなった


は義理であろうと戸籍上の兄妹間で婚姻は許されない。


それを聞いて安心したのがそもそも間違いだった。


妹にあんな視線を注ぐ兄なんてまともじゃない

冷静になって考えれば簡単な事だった

アルベルトはアイリーシャを女として愛している

ただそれだけのこと

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