第7話アルベルトの誓い
アイリーシャは生まれながらにして魔力にあふれていた。またこの世に生まれる以前の記憶、言わば前世の記憶を持って生まれてきたのだ。
この世界で輪廻転生はごく当たり前の摂理だ。しかし前世の記憶を持って生まれてくる者は希少な存在だとされている。それを転生後継記憶者という。
幼い頃のアイリーシャは自分の前世の話をよく話していた。それは想像もつかない夢の様な世界そういわば異世界だ。
その世界には魔法は存在せず、自動車や電車と言う乗り物があり。コンビニエンスストアという店では24時間いつでも買い物が出来るという。また医者という存在があり、魔法ではなく知恵と技術で傷や病気を治してくれる言う。
にわかに信じ難い話だったが、彼女が魔法の一種なのか不思議な力を使って前世の映像を見せてくれた。
彼女の見せてくれた世界は色鮮やかで息をのむほど美しかった。
「私は異世界からやって来たのよ。」「夢みたいな話でしょ。」
私は気がつけば1歳年下の女の子の話に夢中になっていた。
ある時、私は不慮の事故により失明してしまった。
アイリーシャは私の目を治そうと自分の魔力をありったけ使った。
その結果、私の両目は光を取り戻しアイリーシャは魔力を使いすぎたことにより意識不明の重体となった。
なんと2週間を経った頃、ようやくアイリーシャは目を覚ましたのであった。
しかしアイリーシャは魔力を使いすぎたせいか、今までの記憶を失ってしまったと聞いた。
そして恐る恐るアイリーシャのもとを訪ねた。
「アリス…僕だよ。お兄ちゃんのアルベルトだよ。」
「始めましてアルベルトお兄様。」
アイリーシャは笑顔でそう答えた。
でも今向けられた笑顔は作られたものだということを私は知っていた。
その場を逃げ出したいと思った。でもそれは絶対に許されない。
父上と母上も初めは戸惑いを隠せなかったが、記憶がなくなっただけで生きている。別の人間になった訳ではないのだからと、私を責めるような事は一切言わなかった。
記憶をなくしたアイリーシャとは程なくして仲良い関係を築くことが出来た。私は心のどこかで今は記憶が眠っているだけで、きっとそのうち記憶を取り戻すだろうと淡い期待を抱いていた。
その時に私は心に誓った。
《隣にいるのが私ではなくともアイリーシャを必ず守る》
当時アイリーシャが6歳、私が7歳だった。
月日は流れ、私は国立魔法学校に入学する為、侯爵家を離れる事となった。するとアイリーシャも同じ学校を受験したいと言い出した。
彼女はとても負けず嫌いで、とにかく私の真似をしたがる。魔術はもちろんの事、剣術までも覚えたがる程だ。
「お兄様に出来るのならば、私が出来なければ恥ずかしい。」と言うのだが…
家族皆の意見としては、もう少しお淑やかになって欲しいが、怒られそうなので口は堅く閉じてある。
翌年にはアイリーシャも無事に入学をした。受験勉強を頑張った甲斐もあり入学試験ではかなりの好成績だった。
アイリーシャは私の婚約者のルチアーナ嬢と偶然にも2年同じクラスに在籍する事となった。
けれど二人はクラスメイトというだけで仲を深めることはなかった。
しかしルチアーナ嬢は入学する前にアイリーシャと仲良くなりたいと言っていた。
またアイリーシャもルチアーナ嬢のことは気にしていたのは知っている。
ルチアーナ嬢は控えめで目立つのが嫌いなタイプで大人しい。またアイリーシャは見た目は可憐だが好奇心旺盛で活発な子だ。そのためか身分問わず友人が存在した。
アイリーシャなちょっとしたきっかけがあればルチアーナ嬢とも仲良くなれると思っていたのだが…
2学年の後期から何故かルチアーナ嬢がアイリーシャに嫌がらせをしていると家臣の息子であるトーマスに報告を受けた。最初は耳を疑ったがそれは紛れもない事実だった。
しかもアイリーシャの友人を脅してルチアーナ嬢の友人となるように仕向けたという。
そのためアイリーシャはクラスで孤立しているという。
ルチアーナ嬢がアイリーシャの友人を奪うことで何が得られるというのか、理解に苦しんだ。
《何故あのルチアーナ嬢が?!》
学校の規則で自分の学年棟以外には特別な許可がなければ入れない事になっている。今すぐにでもアイリーシャのいる教室へ向かい手を差し伸べたいがそれは容易なことではない。
アイリーシャが私を頼って相談しに来るはずだと信じていた。
しかしいくら待っても相談を受けることはなかった。
彼女はとても負けず嫌いで、弱音を吐くことが大嫌いだ。そんなことは十分理解しているつもりだ。
それでも私は願うようにアイリーシャから相談されるのを待ち続けた。
今思えば私の助けが必要だとアイリーシャに頼ってほしかったのだろう。しかしそんな身勝手な思いは早く切り捨てるべきだった。
そして何も解決していないまま別の報告を受けた。今度はルチアーナ嬢ではない
アイリーシャを慕う友人達は小さく可愛らしく天使のようなアイリーシャ様を守る為に脅しに従うことにしたとらしい。
アイリーシャは友人に裏切られたと思っていたが、実は守られていたのだった。友人たちにとってアイリーシャの整った容姿と年齢に比べ小柄なことが加わり庇護欲を掻き立てられる存在なのだろう。
兄である私から見てもアイリーシャは人を惹きつける美しい容姿であると断言できる。いいや、アイリーシャを超える美少女など見たことはない。
それからしばらくしてアイリーシャに近づく目障りな男の報告も受けた。クラスで孤立するアイリーシャが唯一会話をしている相手で、その男は特別留学生のレオナルドと言った。
しかもその男はアイリーシャのことを敬称なしで名前を呼んでいるらしい。アイリーシャも承諾しているとのことだが、とにかく私はそれが気に食わなかった。
そしてあの日アイリーシャを必ず守ると誓ったにもかかわらず。その誓いは見事に打ち砕かれる事となった。
サマーパーティー前日の夜8時を過ぎた頃、学生寮の自室のドアをノックする音が荒々しく響いた。
ドアを叩く音が部屋に響き。嫌な予感が
アイリーシャの様子を見守るようにと依頼してあった家臣の息子であるトーマスが真っ青な顔をして部屋を訪ねて来た。
「申し訳ございません。アイリーシャ様がケガをされたようです。」
「それはどういう事だ?」
「まだ詳しくは分かりませんが、何者かに階段から突き飛ばされたようで…」
トーマスは口ごもったのだ。
私は目の前の事実に苛立って少し強めに言葉を吐いた。
「何だ?」
「ル、ルチアーナ様を庇うように倒れておりました。」
それを聞き終える前に、自室のドアノブを握りしめていた。
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