第4話エントランスホールにて(後編)

 私の目に前の立っていたのはクラスメイトのレオナルド様だった。


「脅かさないで下さい。心臓に悪すぎます。」

 私はびっくりしてベンチから立ち上がった。


「遮音壁とか使って何してたんだ?」


「そんなに目立っていましたか?」


「いいや。俺も魔力を感じるのに時間がかかったし、他の奴等は気が付いていないはずだ。」


 この魔法学校では、魔法を使うことを認められているエリアと禁じられているエリアが定められている。

 さらには魔法が発動出来ない特別エリアが設けられているのだが、特別棟にあるらしく詳しい場所は周知されていない。


 そしてこのエントランスホールは魔法を使っても良いエリアである。


「今度は容赦しないからな。」

 そう言ってレオナルド様は学年末テストの順位表を指差した。


 彼は隣国出身のである。

 今回の学年末テストでも私と僅差で実技筆記ともに2位という好成績だ。

 通常の留学生は期間が1年から3年程である。しかし特別留学生はこの国の生徒と同じように5年間学校に通う事が許されているのだ。その権利を手にするのは、入学試験で満点取るよりも至難の業らしい。何も言わずとして彼の優秀さを知ることが出来る。


 この学校の規則で留学生はファミリーネームを伏せる事となっている。

 その為か彼は私の事をファーストネームであるアイリーシャと呼んでいる。

 口は悪いが所作が綺麗で、侯爵令嬢の私に対しても態度を変えず堂々としている。おそらく高位貴族出身なのだろう。


 レオナルド様は漆黒の髪色に金色こんじきの瞳をしている。整った顔立ちだがつり目で体格も良い為、人を寄せ付けない印象を受ける。 


 私も仲良くなることはないだろうと思っていたのだが、今では学校内で一番の話し相手になっていた。

 きっかけはクラスで孤立している私に魔力が高いから話をしてみたかったとわざわざ教室で声をかけてきたのだ。

 公爵令嬢のルチアーナ様でも留学生に身分を笠に着ることは出来なかったということだ。


 レオナルド様とはたまに話をする程度で、約束をして会うような間柄ではない。

 強いて言えば魔法の授業でパートナーを必要とする時に助けてもらっていた。


 今日もルチアーナ様とのやり取りをみて心配になって声を掛けてくれたに違いない。


 彼は案外と面倒見が良い。自分から好んで輪に入っていく事はしないが、話し掛けられれば真摯に対応している。

 先日、侍女経由で耳にした話では、3日後に行われるサマーパーティーで、彼にダンスの申し込みをしたい女子生徒が数多くす存在するとのことだ。


 パーティーが終われば長い夏期休暇が始まる。帰省する事が可能だ。そして休暇を終える頃、季節は秋を迎え新学期になり、私も晴れて3年生になる。


「相変わらずチビだな。」


 私は他の同学年の女子生徒の身長と比べて頭一つ分程?いいやそれ以上低い。そのせいもあり年齢よりかなり下に見られてしまう。

 少しでも大人っぽく見せたい為、プラチナブロンドの髪を膝まで伸ばしているのだ。その乙女心わかります!?

 私は淑女とはどうあるべきかなどお構いなく不満顔をして見せた。


 それを見てレオナルド様は私の頭を優しく撫でた。さらにポンポンっと。

 私はお兄様がしてくれるのと何か違うと感じ顔が真っ赤になった。

 こう見えて深窓の令嬢ですので、そういったことは勘弁して下さい。


「耳まで真っ赤だな。」

 レオナルド様は口を手で覆い笑いを堪えている様だ。


「レオナルド様。私は男性とのコミュニケーションは不慣れですので、からかうのはお止め下さい。」


 更に顔を赤くした私がそう言うと、レオナルド様は我慢できずに声を出して笑った。

 レオナルド様は決してからかったつもりはないとのことで、何とか折り合いがついた。

 そして去り際に気になる一言を放った。


には気をつけろよ」

 そう言うとレオナルド様は去っていった。


《どっちの公爵家?》


私もしばらくして人気ひとけの無くなったエントランスホールを後にした。

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