第3話エントランスホールにて(前編)
大半の生徒たちはテスト結果の確認を終えるとエントランスホールを後にしていた。
「ルチアーナ様お言葉ですが、そのよう事実はありません。何故そのような事をおっしゃるのか理解いたしかねます。」
私は憤りを感じつつも口角をあげた。本当に淑女の仮面を被るのも疲れる。私は侯爵令嬢という地位にそぐはない性格だと自負している。そんな娘で申し訳ないと思うと家族の顔が浮かんだ。お父様、お母様、お兄様。
次は何を言われるのかと唇を噛み締めていると一人の殿方がゆっくりとこちらに近付いてきた。私はその気配と同時に強い魔力を感じ、現状を理解したのだ。こちらの殿方が魔法を使って一時的に遮音壁を作り出しルチアーナ様と私の会話が漏れないようにしてくれていたようだ。
遮音壁と言っても目に見えて壁が現れるわけではなく、会話が漏れないように透明な壁が私たちの周りを囲んでいるといったところだ。そして既に作られた遮音壁の中には術者以外は入れない仕組みになっている。
なるほどだからギャラリーが増えていないのかとあっさり疑問は解決したが、問題はそこではなかった。
目の前にいる殿方はなんとバックフェル公爵家の嫡男であるウィルアムズ・バックフェル様だったのだ。
ウィルアムズ様は1学年上の先輩にあたり成績優秀で人望が厚く生徒会役員も三期連続務めている。物腰も柔らかく長身でスタイルも良い。髪色はこの国では珍しいボトルグリーンでまるでブルーサファイアをはめ込んだような瞳をしている。
その瞳に見つめられると失神してしまう女子生徒がいるとかいないとかで、この魔法学校に通っている生徒なら知らぬ者はいないと言われている。
「ルチア、この国立魔法学校で不正などできるわけがないよ。おおよそ誰かに唆されたんじゃないか?君はとても素直な子だから。」
ウィルアムズ様は不正などしていないと主張してくれている。しかもルチアーナ様を責め立てるような事はしていない。ルチアーナ様はウィルアムズ様に大事にされているようだ。過保護な兄的な存在なのだろうか。
ルチアーナ様は肩をブルブルと震わせて俯きながら言葉を吐いた。
「ウィルアムズ様がそのような事をおしゃるっと思いませんでしたわ。元婚約者の私ではなくアイリーシャ様の肩を持つのですか?」
「その様子からみると君は誰かに利用されてしまったんだね。僕が代わりにその悪者にお仕置きをしてあげるよ。もう大丈夫心配しないで。」
ウィルアムズ様は腰を折りルチアーナ様の手を取った。ルチアーナ様はゆっくりと顔を上げウィルアムズ様にお礼を告げ、私に謝罪をしたのだった。もちろん私も謝罪を受け入れた。
「アイリーシャ嬢すまなかったね。今回の事は目を瞑ってほしい。ルチアとは幼少の頃から懇意にしていて一時は政略的な意図で婚約していたが、誤解されるような仲ではない。一応言っておくよ。」
目を合わせて話してきたウィルアムズ様に一瞬ドキッとしてしまった。
「お気遣いいただきありがとうございます。許すも何もルチアーナ様を傷つけた方が悪いのです。お気になさらないで下さい。」
私はようやくこの状況から抜け出せると思うと自然と笑みがこぼれた。
「承知した。僕たちはこれで失礼するよ。」
ウィルアムズ様はパチンと指を鳴らし遮音壁の魔法を解いて、ルチアーナ様をエスコートして去っていった。
私は緊張の糸が途切れるとエントランスホールにあるベンチに腰を下ろした。
そう言えばルチアーナ様の元婚約はあのウィルアムズ様なのよね。間近で見るのは初めてだったけれど噂以上の美男子だったわ。ウィリアムズ様の次にお兄様が婚約者なんてルチアーナ様はかなりの面食いなのね。まあ私は断然お兄様派ですけどね!
「アイリーシャ」
名前を呼ばれてようやく座っている自分の目の前に人が立っていることに気が付いたのだ。
どう見ても気を抜きすぎでしょ!アイリーシャしっかりするのよと自分で自分を叱咤した。
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