第26話⭐︎のし掛かるもの




次の日の朝、セイラは客間のバスルームにある大きな鏡を見ていた

セイラ専属のメイド、ヒバリが持ってきてくれた薄いピンクのワンピースが凄く綺麗で、胸あたりに小さく咲く白い花が可憐で気に入っている様だ

しかし、彼女が見ていたのはそこでは無いようだった


「セイラ、そろそろ俺も行ってくる」

そう言ってバスルームを覗くと、長い髪の毛をどうしようと悩み“うーん”とうなる彼女がいた


せっかく眼鏡をかけずに過ごせるというのに彼女は前髪で目を隠し、後ろ髪をゆわいたりおろしたり忙しそうにしている


「せっかく素敵なワンピースを着ているんだ

可愛い顔を出したほうがいい。隠すなんて勿体無い」

彼女に近づき前髪を横へ流し、隠れていた潤んだ大きな瞳を見つける


「セイラの瞳は神秘的で美しい。とても魅力的だ」

そう彼女に微笑むと赤くなり

「わか…あの…」と声になっていない


ーコンコンー


「朝からお熱いところすまないねぇ

お迎えに上がったよお嬢ちゃん」

そうニコニコと笑いバスルームを覗く来客のせいで、セイラは驚きヘナヘナと座り込んだ


「飛鳥さん!い…入口でノックして下さい!」

そう恥ずかしそうに言うセイラに


「入口の扉が開いていたからついねぇ」

と言い彼女は笑っていた



ー§§§ー



飛鳥さんが連れてきてくれたお城の図書室はとても広く、国立図書館とさほど変わりがない様に見えた


「ここの本はいつでも読んで良いからねぇ

今日はお嬢ちゃんに見て欲しいものがあるからこっちなんだ」

そう言って向かった先は図書室の一番奥、とても重厚な扉があった


「この扉の向こうは王族の者でも限られた人しか入れない“禁制の書棚”と言われている場所だ

いつもは国王陛下と皇太子殿下しか入れない様に魔法が掛かっているんだが、許可が降りてねぇ」


鍵を開けて入ると少し薄暗い部屋には机と椅子、そして書棚には古びた本が数十冊入っていた

飛鳥さんは部屋の灯りをつけて、一つの本を探し出してきた


「この本を読んでみて欲しかったんだ」

そう見せる本の表紙には“スピカのDIVA”と書いてあった


「こんな重要な本を私が読んでいいのですか?」

思わずそう聞いてしまう


「お嬢ちゃん…いや、セイラ嬢

ずっと知りたかった事なのだろう?私も知って欲しいんだよ

40年前、陛下にお願いして私もこの本を読んだ

自分が探していた人をきちんと知りたくてね


何故かこの国の民は皆んな知らないんだ

DIVAがどんななのか…どれだけ必要か…


歴代の王達は国民にDIVAという守り神の存在を知らせて、パニックを引き起こしてしまうなら、存在せぬ間はまだそのままでいいと判断してねぇ

暴動や不安の引き金になるやも知れぬと思ったのだろう


だが、今は違う…セイラ嬢…お前さんがおる」

そう言われて俯いてしまう


「私は…私にはそんな大層な事何も出来ないです…

自分に大きな力があったとしても…私は強くない…から…」

ポロポロと涙が落ちる手に小さな温かい手が添えられた


「セイラ嬢…重荷に感じさせてしまってすまないねぇ

こんな優しい娘に苦しい事を決断させようとしている


だが、セイラ嬢がDIVAの魔力を開花してしまった以上お前さんの命を狙う者がいる事も確かだ

大切と思う者の命もしかり…


その時は勿論、王族とDIVAの側近となる神官とで命をかけて守るだろうが、いずれ我らの力だけでは敵わぬ戦いになるのも事実…


しかしまぁ、ここまで言って何だが…

セイラ嬢の自由だよぉ!何も気に留める必要はない!人の人生は自由だからねぇ

とりあえずはこの本を読んでほしい。それだけさぁ」

そう笑う飛鳥さんの苦しさが伝わってきて、涙を流す事しか出来なかった

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