第25話⭐︎安心する手




「ささ、冷めぬうちに食べないとねぇ」

そう言って部屋の中に運ぶ飛鳥にセイラはニコニコしてついて行くが、何やら忘れていた事柄が頭をよぎった


「ん?あれ?確か、ご夕食は国王陛下とご一緒にと神官の春日さんが…」

そう思い出し青ざめていく

「ベッドまで勝手にお借りした上に約束も忘れて寝てしまうなんて…私はとんだ無礼者です!

ど、どうしましょうカムイさん!」


「落ち着いてお嬢ちゃん。大丈夫だよぉ

私が言ったんだ!今日は疲れているから休ませてやってくれとねぇ」


「飛鳥さんは唯一ゆいいつ、陛下を尻に敷ける女官だ

セイラは気にしなくて良い」

カムイはそう言って

“まずは食べよう”とセイラにフォークを渡す


お腹が空いていたセイラはその言葉と目の前の美味しそうなハッシュドビーフに負け、席に着いた

“いただきます”と言うとトロトロに煮込まれた牛肉を頬張った



「カムイ殿は私を知っていたんだねぇ

会った事が無かったから私を知らないと思っていたよぉ」

セイラの隣でステーキをカットするカムイに飛鳥は話しかけた


「陛下だけではなく色んな王族の者から話は聞いていました。やり手の女官がいると…

それに陛下がスピカ王国遠征に出る日、陛下と一緒に車に乗るあなたを少し見た事があります

随分と昔なので、図書館でお会いした時は飛鳥さんと気づきませんでしたが…」


「あの日見送りに来ていたのかい!?


陛下はあの車でカムイ殿が見えなかったとなげいていたんだ……

私もその昔にこうしてお前さんと話が出来ていたら、違う未来が見えたかもしれないねぇ」

そう切なく笑う飛鳥からカムイは目線を外し食べ始めた


「そうだお嬢ちゃん

明日の朝にセレーネ様が到着する予定だったんだが

大きな流星群があってねぇ、星船が進めず遅れるようなんだ

だからその間に図書館フレンドとして、ここの図書室を紹介したいんだが…どうだろう」


「図書室…行ってみたいです」


「そうか。じゃあ決まりだねぇ

朝にまた知らせてくれたら、お迎えにあがるよぉ」

“また明日ねぇ”そう言って飛鳥は出て行った


「あの、ご迷惑じゃなければカムイさんもご一緒して欲しいです…見知らぬ人ばかりで眼鏡も無く心細くて…」

下を向くセイラを見たカムイは頭を撫でた


「大丈夫だセイラ…ここの者は決して悪い奴らじゃない。俺が保証する


明日ついて行ってやりたいが…

一度家に戻ってセイラと俺の最低限の着替えや薬を持ってきたいんだ

ここの者は用意すると言ってくれるが寝る時ぐらいは安心できる物がいいと思ってな

それに図書館に置いてきたトラックもここに運んで貰った様で、ついでに家に戻してくる」


「では、私も一緒に…」

そういうセイラを止める


「いや、セイラの顔がもう国中に知れ渡っていてもおかしくない…

危険な目に遭わせる訳にはいかん

明日は飛鳥さんと図書室で待っていてくれ。急いで戻る」


「はい…分かりました」

そう少し落ち込みギュッと握るセイラの手をカムイは優しく包んだ

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