第13話⭐︎綺麗な菜の花




家を出る前にいつもの眼鏡を掛けようとするセイラを制する


「せっかくの可愛い顔を台無しにしなくていい

そこの麦わら帽子をかぶってみてはどうだ?」

そう言うと渋々眼鏡を戻し、ツバが少し大きな麦わら帽子を目が隠れるように深くかぶる


「あの…準備出来ました」

と言う彼女をつれて家から出た


「車を出すから少し待っていてくれ」

と告げ数週間ぶりに車庫からお気に入りの車を出す

ヴィンテージカーだが一目惚れして買った

“黒のジャガーマークⅡ”

何度見ても飽きないフォルムと乗り心地が気に入っている。そう思いながら彼女の前に停めると、似たような言葉が落ちてきた


「私この車大好きです。見た目が可愛くて乗り心地も良くて

いつも思いますがカムイさんのセンスって素敵です」

そういって隣に乗りニコッと笑う彼女に嬉しくなり

“ありがとう”とだけ言った


「さあ、行こう」

とサングラスを掛けながらそう言った時、前から何やら騒がしいのがこっちに向かってくる


「カムイちゃーん!ほら、あんたも急ぎな!

カムイちゃーん」


…柊婆さんだ

思わず苦手だと顔に出しながら嫌々車の窓を下げた



ー§§§ー



サングラスをかけたカムイさんの素敵な横顔から、チラリと柊さんが顔を出した


「カムイちゃんお出かけする所だったのかい

ほれ、これ朝言ってたうちの孫だよ

年は23歳でね、カムイちゃんと5つ違いだから丁度いいと思うんだ」

そう言って顔を覗かせる若い女性はとても綺麗で、黄色いワンピースが似合うお花の様な人だと思った


「私の若い頃に似てとても美人だし、この子もカムイちゃんが気になってる様だし、是非今度デートにでも連れて行ってやってよ」

柊さんがそういうと少し顔を赤らめた彼女が上目遣いで挨拶をする


「花菜と言います。あの、えっと…是非今度お食事でも…」

と言った瞬間、隣からの声で遮られる


「あれ、カムイちゃんお隣にいる女性は?」


「ああ、彼女は婆さんも知ってる人だ」


そうカムイさんが言うもんだから柊さんと花菜さんがまじまじとこちらを見てくる

思わず帽子で隠そうと下を向いてしまうが、無視する訳にもいかず挨拶をする


「あ、あの柊さんこんにちは。花菜さんも初めまして」

いつもの眼鏡がない事で緊張してしまい声がうわずる


「婆さん俺たち今から急用で出るから、また後日話を聞くよ…じゃあ」

そう言って窓を閉めた向こうに

“また明日にでもね!”とカムイさんに告げる柊さんと、こちらを凝視する花菜さんがいた

私が小さく頭を下げると、カムイさんは手を上げアクセルを踏んだ





「あれは、誰だろうね…眼鏡を外していたがいつもの居候いそうろうの家政婦か?」


「お婆ちゃん、あの人はカムイ様の何なの?」


「家政婦の女なら大したことないよ。お前の方がずっとべっぴんだ」


「でもカムイ様、私の目を見てもくれなかったわ…」


「忙ぎだったんだろう…大丈夫だ。これからゆっくり仲良くなったらいいさ。」


残された柊と花菜は遠くなる黒い車を見つめながらそんな話をしていた

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