第11話⭐︎自分の立場
ー鳥のさえずり
揺れるレースのカーテンと窓から入る木漏れ日ー
起きてすぐ自分の部屋だと確認し安心する
あの夢を見た日はいつもそうだ
過去の自分に引き戻され、この幸せを失ったのではないかと不安に
ベッドサイドに目をやると紙があった
“柊婆さんの所に米を買いに行ってくる”
そう達筆に書かれた字で、カムイさんを前に興奮する柊さんが頭をよぎりクスッと笑った
「カムイさんにまたご心配とご迷惑をかけてしまったなぁ…最近は落ち着いていたと思ってたんだけど…」
セイラは夜になると心労からくる発作に襲われることがあった
カムイと出会った時は頻繁に起こっていたが、一緒に暮らし3年以上経った最近は落ち着いていた
ー§§§ー
「おかえりなさいカムイさん」
開いたドアを見ると大きな2つの荷物を持った大きな影があった
姿形で“カムイさんだ”と分かる
一歩入って来て彼の疲れた顔が見えた
「ただいま。おはようセイラ」
そう言って足元にドカッと抱えていたものを置いた
「おはようございます
随分と大荷物だったのですね
私もお手伝いしたかったのに…起きられず…すみません」
「いや、君にゆっくり寝ていて欲しくてやったんだ
毎日早起きして色々作ってくれるが、それもしなくていいくらいだ…
昨夜みたいな日は特にしっかり寝て元気で可愛いセイラの顔が見たい」
そう優しく微笑みながらサラッと甘い台詞を残す
セイラは突然の褒め言葉に恥ずかしくて話をそらそうと下を向いた
「あの…えっと…
柊さんは喜ばれていましたか?」
そう言ってカムイの顔を見なおすと急にゲンナリして話し出した
「あの婆さん、セイラが体調不良で寝てると言ってるのに全く帰してくれなくてな…
朝早くに出たのに1時間以上も店で捕まってしまった
“自分の店のもん無くなるぞ”と言ったが、あれやこれやと袋に詰めて代金は米代だけでいいと受け取りもしない…
もう次には昨日食べた“くぎ煮”の話や、次は何が食べたいか教えろや、しまいには孫との縁談も持ってきやがって…」
そう面倒そうに話す彼の話に、一生懸命まとわり付く柊さんを想像出来てクスクス笑うセイラは最後の言葉に引っかかった
「え!!!!縁談!!?」
思わず大きな声で身を乗り出しカムイを驚かせた
「ああ、だが大丈夫だ。断った」
フッと笑い安心させる様にセイラの頭を撫でた
“……縁談…
別に私はここで居候の身…
カムイさんは私より10歳も上なんだから、そろそろご結婚を考える年齢に決まっているわ…”
そう思いながら何を言っていいか分からなくなり、俯き
「すみません…」と小さく声に出した
「セイラ…何も気にするな…
俺は誰とも結婚する気はないと前にも言っただろう?
俺が自分の人生を歩める時は記憶を取り戻したあとだ…
セイラは気にせずここに居ろ」
そう言うと顔を見たくてセイラの頬に触れた
セイラはカムイの綺麗な目を見つめ、カムイと出会った“約束の日”を思い出していた
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