見たことがない

見たことがない

理論上同じ素材で出来ているあいつの記憶とあたしの指


この夜をただあてもなく引き伸ばす罪悪感と500ml缶


きみのいない自由登校 切り落とされてく二月に短編を読む


何一つ捨てるつもりもない人が号令をかけ花束を踏む


無を詰めたペットボトルを転がしてNetflix見ないで寝てた


こじ開けて刺してすくってかき混ぜて離れてくとき透明だった


また今日も左目だけが泣いている 春の気配を届けるな、風


ワイヤレス(Bluetooth)じゃ首だって吊れないわけじゃんほんとなんなの


早退する人とすれ違う廊下 人質交換であるような


見たことがないから恋、夢、花びら、蜜、肉、死の区別がつかない


新しい皿を下ろして生活を研ぐ私の前に落下する猫


舌の長さの分だけ近づいて 爪の長さの分だけ遠のく


キャンパスの左裏手の片隅の蚊のわく部室 今はもうない


サイダーが冷ました路上 七月の子供が踏み潰していく蟻


初歩的な恋愛指南を真に受けて私の髪もさわってくれない


決していらないプラスチックのおまけ死にたい夜に心残るな


ティースプーン一杯分しかないくせに態度でかいよお前の精子


知らないコアラのマーチの柄があり、わたし大人になってしまった


背の違う缶を握りしめて眠る二人スタッフロールと共に


パンの残り香をまとったさよならの後ふわふわの犬に好かれる

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見たことがない @firstthings

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