最終話 余命1日

 遂に……この日が来た……

今日の午後12時丁度に恐らく俺は息絶えるだろう。

何となくそんな気がする。

現在、時刻は朝の5時だ。

死神はまだ寝ているだろう。俺は荷物をまとめて家を出た。もう2度とあんな事を起こさないように、俺の人生に悔いを残さないように。


「もうこの家とおさらばか……」


俺は家を出た時に少し罪悪感を覚えてしまった。

だがもう遅い。既に覚悟は決まっている。


「ここで止まっていても仕方がない……行くか……」


俺は地面を蹴り駆け出した。

出来る限り遠くへ―――


 私はそこで目を覚ました。

見慣れた壁、家具、天井。

ここは私の空間の中だ。

現在、時刻は6時か。

いつもなら彼は起きているはずだ。

今日は彼に何を作ってあげようか。

そんな事を考えながら私は空間をカマで裂く。

この先は彼の家だ。


「おはよ〜」


私がそう言っても返事は返ってこない。

まだ起きていないのだろうか?

ふとリビングの机を見ると彼が書いたであろう書き置きが置いてあった。


「最期の日は後悔が残らないように朝早くから外出するからよろしく。多分夜には終わるから。あと俺を監視するのはやめろよ。」


夜には終わるから?夜には用事が終わり帰ってくるということだろうか。

まぁ彼の最期の日だ。

彼の自由にさせてあげよう。


「あ〜今日は暇になるだろうな~」



 気付けば俺は見知らぬ場所に来ていた。

あれからどれ程の時間がだっただろうか。

俺は持ってきていたスマホで現在時刻を確認した。

7時か……あれから2時間だったらしい。ちょくちょく休憩を挟んだがよく走ったものだ。

ここまで来れば問題ないだろう。

今から時間を潰すためにネットカフェにでも行こうかな。


 現在時刻は18時、そろそろ外が暗くなってくる時間帯だ。

彼はいつ帰ってくるのだろうか。

私はそればかりを考えながら待っていた。

気の所為かも知れないが妙な胸騒ぎがする。

私はもう1度彼が残した書き置きを見る。


「あれ?裏にも何か書いてある。」


紙の裏には「ごめんな」と1言だけ書いてあった。

それを見た途端、私は家を飛び出した。

そしてカマをふる。


「あれ!繋がらない!」


しかし、カマをふっても空間が裂けることはなかった。そう。このカマには弱点がある。それは『空間の裂け目を繋げる人……つまり彼がその場所の名前を知っていないと空間の裂け目を繋げることが出来ない』

というものだ。

これは私達死神と滝野皐月しか知らない。

私が皐月に教えたのだ。

それを彼が知っている?

それは、つまり―――

気付いた瞬間、私は勘を頼りに走り出した。


 現在時刻は20時か……もう既に辺りは暗くなっていた。

もうそろそろ行かないと……

俺はネットカフェを出て人気が少ない森の方にふらふらと歩いていった。

1歩、また1歩と歩くたびに体が動かなくなってくる。死神の術が切れてきているのだろう。

だがそんなこと気にせず俺はどんどん森の奥へ進んでいった。

暫くして、俺は幻想的な場所に出た。

もう歩ける気がしない。

ここが墓場かな。


 私はもう1度家に戻って来ていた。

現在時刻は21時……彼は帰ってきていない。

私は家の隅々を探した。

もしかしたら皐月のドッキリかも知れない……

そんな薄い希望を抱きながら私は皐月の部屋のドアを開けた。

最初に目に飛び込んできたのは机だった。

机の上には録音機が置いてあった。


 現在時刻は22時30分、色々無理をして俺の余命は短くなったようだ。

俺はスマホを出し、ある人物に電話をかけた。

まだ起きているだろうか。


「あっ皐月さん。こんな夜中にどうしたんですか?」


どうやら必要のない心配だったようだ。


「あぁ志野。1つお前に聞きたいことがあってな。」


「はい。何でしょう。」


「魂を取り出す方法をもう1度教えてくれないか?」


「?まぁいいですよ。まず御札を用意してください。この前渡した御札で大丈夫です。そういえば前世を見ましたか?」


「あぁ見たが……」


「そうですか。まさか前世の皐月さんの独り言があんなに多いとは思いませんでしたよ。」


どうやら志野は死神が見えないから俺がずっと独り言を喋っていると勘違いしたのだろう。


「あぁ俺もそう思うよ。それより速く教えてくれないか?」


「急いでるんですか?まぁいいですけど……

まず―――」



 私は録音機を再生した。

録音機には皐月の声が録音されていた。


「あ〜ゴホン。これを聞いているということは俺はもう家に居ないんだろうな。でもお前は俺の魂を取らないといけない……だがもう探さなくてもいい。俺は自分で魂を取り出す方法を知っているからな。もう後悔は無い。強いて言うなら最期にお前に会えなかったことかな……あぁヤバい涙が出てきた。じゃあな。

『世界一優しい死神さん』」


そこで録音は終わっていた。

私の頬を涙が伝う。

嗚呼、もう1度、もう1度私は大切で大好きな人を失ってしまった……

嗚咽が溢れる。


「さようなら……滝野皐月。」


私は彼の部屋で小さく呟いた。




















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世界一優しい死神さん 杜鵑花 @tokenka

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