第8章384話:最終回

私は地面に着地する。


「はぁ……はぁ……はっ……はぁ……っ……はぁ……」


汗をかいていた。


さんざん戦ったことで、身体が熱い。


私はアレックスに視線を向ける。


アレックスは力が抜けたように両膝りょうひざをついていた。


その身体からは【魔力線まりょくせん】が消えていた。


スヴァルコアによる暴走状態ぼうそうじょうたいが解けたのだ。


そして私が斬りつけたアレックスの傷はえていた。


見た目だけならば、アレックスは全快ぜんかいしている。


ただ、魔力が枯渇しており、ロクに動けないようだ。


「私は、悪くない……」


とアレックスはつぶやいた。


「悪いのは貴様だ。私はいつだって正義を成そうとしてきた。なのにいつも私ばかりが責められる」


そしてアレックスは激情げきじょうをあらわにする。


「貴様がいるからだ!! 私が正当に評価されないのは、ルチル!! 貴様のせいだ!!! 貴様さえいなければ、私は今頃いまごろ、誰からも認められる王太子おうたいしだったはずなのに!!」


「……」


現在のアレックスは正気しょうきに戻っている。


しかし主張内容は、さきほどと大して変わらない。


自分は悪くない……と訴え続けている。


「変わりませんわね、あなたは」


と私は呆れたように、諦観ていかんしたように、苦笑した。


一つだけ確信していることがある。


私とアレックスは、一生わかりあうことはないということだ。


たとえ真剣勝負しんけんしょうぶをしても。


互いの主張をぶつけあっても。


死んでも分かり合えない、隔絶かくぜつされた他人なのだ。


私とアレックスの縁は、婚約という形で、交差したように見えて。


そのじつ、ただの一度も交わらなかったのだろうと思う。


「あなたは王都を破壊し、多くの人を傷つけました。死罪しざいまぬがれないでしょう。せいぜい処刑の日まで、暗いろうの中で過ごすとよろしいですわ」


「死罪だと!? バカを言うな、私は王子だ。処刑などされるわけが――――――」


アレックスが反論する途中で、私はジルディアスソードを振るった。


ジルディアスソードの腹で、アレックスの頭を殴る。


「がっ!?」


アレックスは昏倒こんとうした。


気絶して、動かなくなる。


「ふう……」


私はひとつ、息をした。


空を見上げる。


あるかなきかの風が吹き抜けて、私の髪を静かになびかせる。


そのとき。


「終わったか」


とミジェラ女王が背後から声をかけてきた。


ミジェラ女王は、さっきまで動けないほどに負傷していた。


だから私は尋ねる。


「もう動いても平気ですの?」


「ああ。十分、休んだからな」


答えつつ、ミジェラ女王は言った。


「アレックスは倒れた。王都の騒乱も、じきに収束するだろう」


「そうですわね」


さすがに疲れた。


しばらく、平和に過ごしたいものだと思うが……


アレックスの残した爪跡つめあとは大きい。


王都はかなりのレベルで壊滅しているし、しばらくは事後対応じごたいおうに追われる日々が続くだろう。


イリスフォルテという黒幕についても調べなければならない。


しかし。


そういうのは明日からだ。


今はジルガーンとアレックスを倒し、王都の混乱を収束させたことを喜ぶことにしよう。





かくして王都の騒乱は収束した。


王都に起こったこの日の騒乱そうらんは【王都事変おうとじへん】と名づけられることになる。


王都事変によってアレックスは有罪となり、死刑が宣告された。


また、私との婚約も、もちろん解消される運びとなった。


完全な意味でアレックスとの関係を絶つことになった日。


私の人生において、新たなステージが幕を開けるのだった。






最終章 完


エピローグへ続く




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