第8章317話:殿下と2

私は肩をすくめて、告げた。


「クラウス殿下に謝っていただかなくても……」


「アレックスは君に謝罪をしたのか?」


「……いいえ」


「あのバカが」


と吐き捨てるようにクラウス殿下が言った。


さらに続ける。


「昔から、アレックスの人格には問題があると思っていた。自己中心的で、思い込みが激しく、権力を盾にすることを躊躇ちゅうちょしない」


まあ、アレックスと一緒にいれば、その悪辣あくらつさを目にすることはいくらでもあっただろうね。


ふとクラウス殿下が尋ねてきた。


「今回のアレックスが、どのような処罰を受けるか……知っているか?」


「はい。とある監獄へ収監されるそうですわね」


「聞いていたか。母上があそこまでお怒りになるとは、よほどのことだ」


王族が監獄送りになるというのは、異例の事態。


貴族社会に、かん口令こうれいが敷かれているので、一部の人間しか知らない話だ。


「もしかすると、女王陛下はアレックスを次期国王じきこくおうとしてお認めにならないかもしれませんわ」


と私は推測を述べた。


たとえ、かんこうれいいていても、人の口に戸は立てられない。


『前科者の第一王子』……というステータスは、永遠について回る。


それがわかっていて、女王が監獄かんごくおくりをもうわたしたということは……アレックスへの王位継承を考えていないのかもしれない。


「クラウス殿下からすれば、ある意味、たなぼたですわね。わたくしもアレックスより、殿下のほうが国王に向いていると思いますもの」


「……私は、王になどなるつもりはないのだが」


クラウス殿下は、本当にうんざりしてそうな顔である。


私は苦笑しながら言った。


「少なくとも、アレックスが王となっても混乱がもたらされるだけでしょう。……ですから、お覚悟はなさっておいたほうがよろしいのではなくて?」


クラウス殿下はため息をついていた。


そして話を切り替えるように告げた。


「しかし……それだけアレックスに手厳しい意見を述べるぐらいだから、君がアレックスに婚約破棄を突きつけたというのは、事実のようだな」


「はい、事実ですわ。アレックス本人に直接伝えたわけではなく、ミジェラ女王に具申ぐしんした形ですが」


「そうか。まあ、婚約破棄は当然だろう。私も、君の決断を支持しよう」


「……ありがとうございます」


と私は礼を述べた。


婚約破棄に関しては、良くも悪くも、政治の勢力図が変わる。


今回の婚約破棄をって、私やミアストーン家と敵対する勢力もいるだろう。


だから支持してくれる味方は多いほうがいい。


特にクラウス殿下のような、まさに王家の中の人間とは、仲良くしておきたいところである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る