第8章313話:久しぶりの学園

さて、翌日。


朝。


晴れ。


私は復学届を提出するために大学に来ていた。


実際に復学をするのは、もう少し先でいいかと思っているが……


今のうちに、復学届だけは出しておこうと思ったのだ。


――――大学の構内。


エドゥアルト、フランカとともに大学の敷地しきちを歩く。


すると、以前大学に通っていたときとは、明確に異なる事象が発生していた。




「おい、ルチル様だぞ」


「英雄ルチルだ!」


「あれがルチル様か」


「ああ、なんと尊い……!」


「今日は大学に通ってこられたようですね」


「あの英雄ルチルと同じ大学に通えるなんて……精霊に感謝しなければ」




私が大学内を歩いていると、ほとんどの学生たちが立ち止まる。


そして『英雄』という言葉をつぶやきながら、羨望せんぼうのような眼差まなざしを向けてくるのだ。


中には話しかけに来る者もいた。


もちろん適当にあしらったが……


「これはなんというか……歩きにくいですわね」


と私はぽつりと本音を漏らした。


英才教育により、堂々と歩く訓練はしているものの、内心ではむずがゆい想いがあった。


フランカが言った。


「以前とは注目のされ方が段違いですね。ジルフィンドとの戦争以降、みなさん、ルチル様を一目ひとめ見たいと思っていたみたいですからね。ちなみに、巨大なファンクラブも設立されたようですよ」


「ええぇ……」


と私は少し引いてしまう。


エドゥアルトは苦笑しながら告げた。


「ルチル様は、もてはやされるのがあまりお好きではありませんよね。私としては、ルチル様が注目されて鼻高々はなたかだかですが」


「もてはやされる身になってみれば、わかりますわよ。……というか、エドゥアルトやフランカも注目されているようですわよ」


遠巻きに見つめるギャラリーたちの中には、明らかにエドゥアルトやフランカの名前を口にする者もいた。


エドゥアルトにしろ、フランカにしろ、私とともに戦争を駆け抜けた戦士。


私が英雄だとするのであれば、二人は、英雄の近衛このえみたいなものなので、そりゃ注目されるだろう。

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