第8章311話:ルーガと1
さらに翌日。
この日は雨が降っていた。
さすがに人の訪問はないかと思っていたが……
昼過ぎに、父ルーガが屋敷を訪れた。
とりあえず2階リビングに通す。
お茶を出す。
飲みながらルーガが言った。
「久しぶりだな、ルチル。領地経営は上手くいっているようだな」
「はい。現在は、ルチル商会の部下であるフランチェスカに、代官を任せておりますが」
「うむ。お前を領主の地位に縛り付けておくのは惜しいからな。それでいいと思うぞ」
とルーガは微笑んだ。
……そんなことを言いに、わざわざ屋敷にやってきたわけではあるまい。
私は尋ねる。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか? 父上」
するとルーガはお茶をテーブルに置いてから、告げた。
「……アレックス王子の件について、だ」
「ああ。その件ですか」
「お前が王子との婚約破棄を、女王陛下に申し伝えたと聞いた」
「はい。おっしゃる通り、わたくしは婚約を破棄したいと、女王陛下に申し上げましたわ。もしかして、父上はご反対でしたでしょうか?」
「いや、反対ではない。アレックス王子がさきの戦争において、目に余る暴挙をおこなったことは、私も耳にしている。女王陛下も息子の不始末に対して、大変お怒りのようだしな。ネキア中隊長が大事に至らなかったから良かったものの」
確かにネキア中隊長が無事だったのは良かった。
もし死んでいたら、アレックスへの処罰は遥かに厳しいものになっていただろう。
「あのような王子は、お前にふさわしくない。ゆえに婚約を破棄して正解だと、私は思う」
とルーガは結論を述べた。
私は微笑みを返す。
「……わたくしの決断を肯定していただき、ありがとうございます。他ならぬ父上がそのようにおっしゃってくださるのは、とても心強いですわ」
「うむ」
とルーガはあいづちを打った。
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