第7章303話:軍事都市

馬車を走らせる。


いつものように馬車の中で語らう。


「いよいよ元大公領の視察は終わりですか」


とエドゥアルトが言った。


「ええ。でも、まだまだ視察はこれからですわ」


「そうですね。ちなみに次はどちらに向かわれるのですか?」


とフランカが尋ねてきた。


私は答える。


元伯爵領もとはくしゃくりょうが近いですから、このまま元伯爵領へと入ってしまいましょう。まず目指す街は、ヒースレインですわね」


と目的地を明らかにする。


馬車をヒースレインへと向かわせた。


途中、馬車の歯車が壊れたので、私の錬金術で修復するなどのハプニングがあったものの……


数日のうちにヒースレインへと到着した。


――――大都市だいとしヒースレイン。


この街は、元大公領もとたいこうりょうの南東を抜けた先に存在する、元伯爵領もとはくしゃくりょうの大都市であり、総人口そうじんこうは3万人である。


周囲を城壁に囲まれており、青い屋根の家と、石造いしづくりの四角しかくい家が混在するように建ち並ぶ。


軍事的な性格の強い都市だ。


練兵場れんぺいじょうが複数あったり、闘技場が開かれていたり、近くに二つの砦を構えたりと、戦士職せんししょくのための施設が多い。


街をゆく者たちの中にも、兵士や戦士などの姿が数多かずおお見受みうけられた。


私たちは街路を歩く。


「ここは……いくさのとき、一度訪れた都市ですね」


とエドゥアルトが思い出したように言った。


「そういえばそうでしたね」


とフランカが肯定する。


リファリネスが首をかしげる。


「……いくさというのは?」


「今年のはじめごろですが、ジルフィンド公国とクランネル王国のあいだで戦争があったのですわ。結果、クランネル王国が勝利し、ジルフィンド公国は崩壊―――クランネルの一地方いちちほうへと変わったのです」


「なるほど……ルチル様たちは、その戦争にご参加なされていたんですね?」


「そういうことですわね」


ヒースレインと、周辺にある二つの砦は、戦争における要所であった。


だからルーガ軍が陥落かんらくさせたのだ。


別に陥落させなくても、あそこまで状況が進んでいたら、勝てた戦争ではあっただろうが……


より効率のよい勝利を目指すのは、しょうとして当然の采配さいはいである。


戦火せんかがあった場所ですから、復興をどうするかが、目下もっかの課題ですわ。そのことについて、ヒースレインの市長と話をするつもりで―――――」


と私が途中まで話しかけた、そのときだった。


街路の横から、滑るように人影が移動してきた。


フードをかぶったその人物は、流れるような足取あしどりで私の間合いに入ってきて、腰の剣を抜き放ってくる。


「ッ!!」


最も素早く反応したのはリファリネスだ。


私の盾になるかのごとくリファリネスが移動して、襲ってきた刺客しかくの斬撃を素手で受け止めた。


「ちっ!!」


フードの刺客はバックステップをしながら魔法を放つ。


炎魔法ほのおまほうが爆発するかのごとく迫りくる。


いきなり炎が炸裂したことで、周囲に悲鳴が上がった。


しかし。


「無駄です」


リファリネスは右手を振り払う動作で、炎と黒煙こくえんをサッと打ち消した。


さすがヴァンパイアだ。


物理だろうが魔法だろうが、力づくで無力化していく。

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