第7章295話:奥の扉

リファリネスの申し出について、私は考える。


――――ヴァンパイアは魔族ではない。


しかし、魔族と近しい種族ではある。


人間との関係は、敵対的ではないが、友好的でもないといったところだ。


ヴァンパイアとは、冒険者や戦士、英雄などが争ってきた記録も残っている。


人から毛嫌けぎらいされているわけではないが、強力な個体がほとんどなので、恐怖の対象とされやすい。


(でも……)


と私は思う。


ヴァンパイアを仲間に加えるメリットは、非常に大きい。


まず戦闘能力が極めて高い。


バフポーションを飲んだ私たちが、三人がかりで制するような相手。


高レベルダンジョンのボスとして配置されていたことからも、その強力さはうかがえる。


(というか……ダンジョンボスって仲間になるんだね)


初めて知った。


いや……ゲームでも、そういうイベントが無いわけではなかったか。


ヴァンパイアが仲間になるというのは、さすがに聞いたことはなかったが……


「わかりましたわ」


私の中で結論が出たので、告げる。


「あなたを、わたくしの家臣として迎えましょう」


「本当ですか!?」


「はい。これから、よろしくお願いいたしますわ」


と答える。


「では使い魔の契約を」


とリファリネスが申し出てきたので、私は契約をおこなう。


契約自体は簡単であり、私の血をリファリネスに飲ませるだけである。


片膝をつくリファリネス。


私は、自分の手のひらを剣で裂き、指先に血をたらしてリファリネスに含ませた。


契約の刻印がリファリネスの額に現れる。


これで彼女は、正式に私の使い魔となった。


傷ついた手のひらは、ポーションで回復しておく。


さらに私は、エドゥアルトとフランカを示唆しさして告げた。


「一応、ご紹介をしておきましょう。こちらはわたくしの専属騎士エドゥアルト。そしてこちらは、護衛役のフランカですわ」


「エドゥアルトです。以後お見知りおきを」


「フランカです。よろしくお願いします」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


とリファリネスは立ち上がりながら告げて、一礼をした。


私は告げる。


「わたくしの家臣となるならば、このお二人とも長く付き合っていくことになると思いますので、どうか仲良くしてください」


エドゥアルト、フランカ、リファリネスはそれぞれ、うなずく。


「さて……」


私は、ボス部屋の奥に目を向ける。


そこには、一つの大きな扉があった。


不思議な彫刻がほどこされた扉である。


私は告げた。


「あの扉の奥も、調べてみたいですわね」


私の言葉に、全員が扉に視線を向ける。


「第6層もあるということでしょうか」


とフランカが推定する。


第5層より深層がある……という可能性もあるが、決まったわけではない。


ただの宝部屋たからべやかもしれない。


「一応聞きますが、リファリネス。あの扉の向こうについては、何かご存知ですの?」


「……いいえ。申し訳ありません。何もわかりません」


ふむ。


ダンジョンボスでもわからないか。


というか、ダンジョンボスの記憶がどうなっているのか、気になる。


あとでいろいろ質問してみたいところだ。


「とりあえず開けてみましょうか」


と私が告げる。


「では私が」


とフランカが言った。


バトルアックスを片付けたフランカが、扉に近づき、触れる。


ぐっと押し込むように力を入れて、扉を開いた。


重厚な音を立てて扉が開いていく。

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