第7章294話:申し出

「倒せましたね……強かったです」


とフランカがしみじみとつぶやいた。


「お見事です、ルチル様」


とエドゥアルトが言ってくる。


私は告げた。


「二人とも、お疲れ様。わたくしが錬金術をするあいだ、よく時間を稼いでくれましたわ」


「いいえ。もったいないお言葉です」


とエドゥアルト。


「ルチル様のお供として、当然です」


とフランカ。


さて……ねぎらいの言葉もほどほどに、私はヴァンパイアへトドメを刺そうと剣を握る。


首を切り落とすまでは、完全に死んだとは限らないからだ。


しかし。


「……!?」


ヴァンパイアが、むくりと上体じょうたいを起こす。


私はすぐさま警戒を高めた。


エドゥアルトやフランカも気づいて、身構える。


そんな私たちを、ヴァンパイアは見上げる。


(あれ……?)


と私は、異変に気づいた。


ヴァンパイアの赤い目が、人間と同じような、白い目に変わっている。


その白い目の中心に、黒い瞳が映っている。


みなぎる戦意や殺意も消失し、まるでものが落ちたような顔をしているヴァンパイア。


彼女は、口を開いた。


「あなたたちは……」


状況が掴めないといった表情で、ヴァンパイアが私たちを見つめてくる。


しかし、すぐさま思い出したかのようにつぶやく。


「ああ、そうでした……私は、あなたたちと戦っていたんですね」


まるで自分の記憶を整理しているかのようなしぐさだ。


私は、ヴァンパイアの様子の変化に驚く。


さきほどは攻撃的な魔物としか言えない状態だったが、現在は、人間と同じ理性すらうかがえる。


「私は……闇に囚われていました。あなたが、私を救ってくださったんですね」


とヴァンパイアが私に向かって言ってきた。


私は静かに答える。


「……救ったつもりは、ありませんわ」


「あなたにその意図はなくとも、聖属性の武器で私を斬りつけたくれたことで、正気を取り戻すことができました」


ふむ……


私は聖アイシクルソードで、彼女を殺すつもりで斬りつけたのだが……どうやら予期せぬ結果を招いたようだ。


ヴァンパイアがゆっくりと立ち上がる。


「まずは自己紹介をしておきましょう。私は、リファリネスと申します。お名前を、お聞かせいただいても?」


「ルチル・フォン・ミアストーンですわ」


と答える。


するとヴァンパイア―――リファリネスが予想だにしない申し出をおこなってきた。


「ルチル様。あなたにお願いしたいことがございます。どうか私を、あなたの眷属けんぞくとしてお認めいただけないでしょうか?」


「……!」


「私は、あなたに非常な大恩たいおんを感じております。あなたに救われたこの身は、以後、あなたのために使いたく存じます。ですから、どうか」


「わ、わたくしの家臣かしんになりたいということですの?」


「はい」


とリファリネスが肯定する。


なんと……。


ヴァンパイアが、私の下につきたいと申し出てくるとは……。


あまりに予想外すぎる出来事で、私はしばし呆然としてしまう。




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