第7章287話:提案

ただ……


(一般的に鉱山は深いところにもぐるほど、レアな鉱石が産出するんだよね)


多くの鉱山はダンジョンの一種。


深層しんそうになればなるほど大気に存在する魔力が濃くなり、濃度の高い魔力を有した良質な鉱石が採掘さいくつできる。


しかしダンジョンゆえに、1層ごとにフロアボスがいる。


フロアボスを倒さなければ、その層が浄化されることはなく、魔物がリポップし続ける。


全てのダンジョンがそういう仕様ではないが、このメイルデント鉱山は、そういう形式のダンジョンだろう。


市長の話によると、1~4層までのボスは討伐されたが、5層以降のボスについては討伐できていないようだ。


(だったら、私たちが討伐すれば、5層以降の鉱石も採掘できるようになるんじゃないかな)


と私は思った。


なので、提案してみることにした。


「そういうことでしたら、市長。わたくしに任せていただけませんか?」


「任せる……とは?」


「もちろん、第5層の攻略です。わたくしが、第5層のボスを討伐してみせましょう」


「なっ!?」


と市長が驚愕を示した。


私は微笑みながら告げる。


「第5層を浄化すれば、鉱山資源の減少を解決できるかもしれません。第5層には、まだ見ぬ鉱石が眠っているでしょうから」


――――鉱山が衰退したとき、大きな問題が発生する。


鉱山で働く鉱夫たちが失業してしまうことだ。


これは、つるはしの販売計画を実行したとしても、避けられない未来だ。


なので、そもそも鉱山が衰退しないことに越したことはないのだ。


第5層を解放すれば、衰退しつつあったメイルデント鉱山が、息を吹き返す可能性が高い。


ゆえに第5層を攻略する価値はある。


「もちろん、鉱山資源の問題が解決しても、つるはしの販売計画を停止する必要はありませんわ。どちらも同時並行で出来ますもの」


と私は告げる。


市長が尋ねてきた。


「え、ええと、確認なのですが、第5層のボスを討伐なさるというのは……つまり、クランネル王国のどなたかを連れてきて、ルチル様の代わりに、攻略を行わせるということですよね?」


「いいえ。わたくし自身が、自らの手で、第5層を踏破します」


「ええ!?」


市長がふたたび驚愕の声をあげる。


そして彼は焦りながら言ってきた。


「第5層は、Aランク冒険者でも踏破できなかったフロアですよ!? 攻略するにしても、別の方に任せるべきで、ルチル様ご自身が潜るのは、おやめになったほうが……」


ごもっともな意見だ。


領主である私が乗り込んで、もしものことがあったら、多方面に迷惑がかかる。


しかし。


「市長。クランネル王国では、上に立つ者ほど、進んで無茶をするものですわ」


貴族は最前線で戦い、戦果を挙げなければならない――――そこで敗北する者など、貴族にふさわしくない。


これがクランネル王国に通底つうていする精神スピリットだ。


めちゃくちゃな理論ではあるが、私は嫌いじゃない。


なぜなら、私が冒険したいときに、この精神論せいしんろんを盾にできるからだ。


「というわけで、第5層の攻略をおこないたいと思います」


と私は再度、明言めいげんした。


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