第7章286話:鉱山

このあと、私は副都の視察をおこなうことにした。


昼。


晴れ。


実際に外に出て、都市の中を歩いてみる。


こざっぱりとした街並まちなみであるが、雰囲気は悪くない。


むしろ活気があるようにすら感じられた。


私はつぶやく。


「鉱山資源が減少していることによって、都市の景気は悪化しているはずですが……それを感じさせないぐらいには、活気かっきがありますわね。なぜでしょうか」


ふと口にした疑問について、エドゥアルトが答えた。


「それはきっと、ルチル様が大幅な減税をおこなったからだと思いますよ」


フランカも同意する。


「エドゥアルトさんのおっしゃる通りだと思います。税金が半減するなら、生活が格段にラクになりますしね。今後も段階的に減税すると宣言したのですから、ジルフィンドのみなさんも未来に希望が持てるでしょう」


……ふむ。


なるほど。


減税政策が領民に明るい影響を与えているのか。


なんにせよ活気があるのはいいことだ。


この活気を持続させられるよう、つるはしの販売計画はきっちり実現させなければいけないね。






副都を一通ひととおり巡って、日が暮れてきたので宿に入ることにした。


この宿は、市長が私をもてなすために紹介してくれた宿である。


副都において最大の高級宿こうきゅうやど


名前はリキュナンド。


通常、こういう宿はスイートホテルのような内装が多いのだが、リキュナンドは全体が石づくりの宿だ。


その最上階さいじょうかいの部屋が、提供された。


石造りの部屋。


床には豪華なじゅうたんが広がり、壁にはいくつかの絵画かいがが掛けられている。


家具としてはテーブルと椅子。


それから天蓋てんがいつきのベッドが壁際かべぎわに置かれている。


さらに大きな窓からは、副都の景色が見晴みはらせる。


夜の街並みを見下ろせるし……


視界を上に向けると、美しい満月まんげつ星空ほしぞらが広がっていた。


良い部屋だ。


ルームサービスとして、高級の林檎酒りんごしゅがテーブルのうえに置かれていた。


これを錬金術で冷やしてから、夜景を眺めつつ、優雅な夜を過ごすとしよう。






翌日。


朝。


都市とし周辺しゅうへんについても視察をする。


とりあえず市長とともに、まずはメイルデント鉱山にいってみることにした。


馬車に乗って、鉱山へ向かう。


足元が悪いので高級馬車こうきゅうばしゃは利用せず、普通の馬車で移動した。





10分ほど馬車で進んだ場所。


そこにメイルデント鉱山がある。


周囲がむきだしの大地と岩だらけの、岩場いわばにそびえ立つ、山のように巨大な岩壁。


それが鉱山である。


岩壁の足元に洞穴ほらあながあった。


縦6メートル、横幅4メートルほどの大きな穴だ。


市長が説明する。


「ここがメイルデント鉱山です。あの洞穴から、鉱山こうざん内部ないぶに入ることができます」


洞穴の手前には、仮設かせつの小屋や、作業用のテントが張られている。


つるはしを持って歩いたり、鉱石を積んだ荷台にだいを押す鉱夫の姿があった。


また、武装している戦士や冒険者の姿も見える。


魔物が出たときのための警備員だろう。


「鉱山内部はどのようになっているんですの?」


と私は尋ねた。


市長が答える。


「第1層はあまり広くないので、作業用の道具どうぐに使っております。第2層、第3層、第4層はとても広く、主にそこから鉱石を採掘しております」


「一番深いところが第4層ですの?」


「……いえ。実は第5層があるのですが、攻略されておりません。かつて国の協力を得て、非常に有力な冒険者や戦士を送り込み、攻略を目指したことがあるのですが……失敗に終わりました」


「ふむ」


踏破とうはできているのが第4層まで。


第5層が未踏破みとうは……か。


もしかしたら第5層だけでなく、第6層以降もあるかもしれないが、もちろん不明なのだろう。


ゲーム知識のある私でも、メイルデント鉱山の5層以降がどうなっていたかは、覚えていない。

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