第7章285話:提案

「なかなか苦悩しておられるようですわね」


と私は言ってから、さらに続ける。


「私に一つ、提案がございますわ」


「提案、ですか?」


と市長があいづちを返した。


期待を持ったのか、少し身を乗り出してくる。


私は告げた。


「実はティール領に、巨大な鉱山資源がございますわ。しかも未発掘みはっくつであり、多くの鉱石が眠っております」


これはゲーム知識だ。


ティール領は新たな鉱山資源を発掘することで、これから繁栄はんえい謳歌おうかしていく未来である。


鉱山収入こうざんしゅうにゅうが減って衰退しつつあるメイルデントとは対照的たいしょうてきだ。


「ティール領……ですか。しかしティール領は、隣の領地。ルチル領ではありませんよね?」


と市長は聞いてきた。


そう。


ティール領は、ルチル領の所領しょりょうではない。


したがって、ティール領からいくら優良な鉱山が発見されても、ルチル領には一銭いっせんも入ってこない。


だが……


「確かにティール領はよその領地です。鉱山が発見されても、うちには恩恵おんけいはありません」


「なら……」


「つるはしを売ってくださいませ」


と私は告げた。


「つるはしを?」


「はい。あまり知られていないことかもしれませんが、鉱山採掘において最も儲けられるのは、鉱石を掘る人間ではなく、つるはしを販売する業者ですわ。なぜなら確実に儲けられますもの」


私の言葉に、市長は大きな反応を示した。


「なるほど……! 自分が掘るのではなく、掘る人間に道具を売る商売というわけですか」


「その通りですわ」


「素晴らしい着眼点ちゃくがんてんですね! つるはしで儲けるというのは、当たり前のようでいて、失念していた考えです。さっそく生産の準備をおこないましょう!」


市長がいきなり立ち上がる。


つるはし販売に希望が見えたようだ。


私は言った。


「私も領主として、支援させていただきますわ。お困りの際は、ご相談ください」


「ええ! ぜひ頼らせていただきます!」


さきほどまでと違い、市長は水を得た魚のように生き生きしていた。


彼は全力でつるはし生産にはげむことだろう。


(この件には、大きなお金が動くと思うし、ついでにルチル商会も介入させておこうかな)


と私は思った。



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