第7章283話:市長邸

馬車が領都を出る。


街道を走り始める馬車。


窓の外には草原が広がる。


そのまま数日かけて、馬車を走らせ……


副都ふくとメイルデントのすぐ手前までたどり着いた。


崖の上から馬車を下りて、広がるメイルデントの都市を見晴らす。


メイルデントは岩石地帯がんせきちたいの中心に存在しており、山のなだらかな斜面に沿って都市が作られている。


山の一番高いところにまで、青い屋根の家々いえいえが立ち並んでいる。


「とても良い景色ですね」


と馬車から下りたフランカが告げた。


山の断崖の上から見晴らすメイルデントの景色は、まさしく絵に描いたような絶景だ。


写真に撮って保存したくなるような気分である。


「ここの市長と会合をするご予定なんですよね」


とエドゥアルトが尋ねてきた。


私はうなずきつつ、答える。


「ええ。メイルデントは、鉱山からさまざまな鉱石を採掘さいくつして販売する、いわば【鉱山都市こうざんとし】として栄えてきた街ですが、最近は鉱山資源の産出量さんしゅつりょうが、低減してきておりますの。その件に関して、副都の市長と話し合うつもりですわ」


この鉱山資源の減少問題については、戦争のせいでより加速してしまった面もある。


戦争に使う道具の生産に、大量の鉱石を消費したからである。


なるべくすぐに対応策を考えて、講じなければならない課題だ。


副都ふくとに辿り着いた私たちは、馬車に乗って、そのまま目的地である市長の邸宅へと到着した。


ルーネス市長邸しちょうてい


ちょっとした屋敷……と呼んでいいほどの、立派な邸宅である。


副都メイルデントを治める市長が在住している。


門前もんぜんに衛兵がいたので、エドゥアルトに声をかけてもらった。


すぐに市長がやってきた。


――――口元にヒゲの生えた、いかにも市長といった感じの中年男性だ。


名前はルーネス。


髪は銀髪。


目は緑色の瞳をしている。


私は馬車を降りて、石畳いしだたみの地面に降り立つ。


「ようこそお越しくださいました、ルチル様。ご尊顔そんがんはいすることが叶いまして、光栄です」


市長はよどみなく挨拶をしているふうで、実際は、いささか緊張の色がうかがえた。


「こちらこそ。本日はよろしくお願いいたしますわ」


「ええ。長旅でお疲れでしょう、美味しい菓子と茶を用意しておりますので、さっそく中へお入りください」


私たちは市長に案内されて、市長邸しちょうていへと入る。

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