第7章281話:手紙

アリアへ連絡の手紙を送ると同時に。


私は領地の視察のための手紙もこしらえた。




ルチル領を統治しているのは、まさしく領主である私だ。


しかし私は領主に就任したばかり。


実質的にはまだ領地を満足に治めているとは言いがたい。


現在、ルチル領を統治してくれているのは、各都市の市長、あるいは各村にいる村長たちだ。


(クランネル王国がジルフィンドの地を支配するようになってから、貴族や領主の激しい入れ替わりが起こってる。その混乱をなんとか抑えてくれてるのが、市長や村長のような、地元じもと有力者ゆうりょくしゃなんだよね)


【公国管理局】によって、領地を治めるジルフィンド貴族の多くが処刑された。


そうすると、新しい領主が就任して統治をはじめるまでのあいだ、市長や村長が自分たちで土地を治めている。


彼らのような有力者によって、各地の秩序が、最低限さいていげん保たれているのだ。





今回、私が書いた手紙は、そんな市長や村長たちに送るものである。


まずは、現在の秩序を守ってくれていることに対する感謝。


そしてこれからは、私ことルチル・フォン・ミアストーンが領主として統治をおこなうということ。


さしあたって各地の視察をおこない、現状の把握と今後の展望について考えたいということ。


――――以上の内容を手紙にしたため、書簡として送った。


ただ、私はあまり弱腰よわごしな対応をするつもりはない。


そもそも領主は、下の人間から舐められたらいけない職業である。


領民にあなどられるような領主は、いずれ反乱を起こされるからだ。


だから視察をする手紙を書いた際も、


『視察をしたいので、空いている日時を教えていただけませんか?』


などと下手したてに出たりはせず。


『この日に視察をするので、準備しておきなさい』


と、ほとんど命令口調めいれいくちょう


視察の日時にちじに関しても一方的に通告つうこくした。


この書簡を送りつけられた市長や村長は、私のことをぎょしがたい人間だと思うだろうし、少しばかり畏怖するだろう。


領主とは、そんなふうに恐れられるぐらいでちょうどいいのだ。


適度に怖がられているうちは、逆らったり、裏切ろうとする気も起きまい。




かくして視察の準備が整ったので。


数日後、私は視察のために屋敷を出発した。

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