第7章278話:演説

3日後。


私は、税金の減税プランをまとめた。


まず領民税りょうみんぜいの税率を40%に引き下げる。


そこから35%、30%、25%……と段階的に引き下げていくプランである。


税金は取りすぎてもいけないが。


下げすぎてもいけない。


どこまで税金を引き下げるか……そのちょうどいいポイントを、領地経営をしながら探っていくことになるだろう。


(ひとまず40%に引き下げることを、領民に発表しよう)


そう私は決心する。


ついでに、私がオーギュストに代わって、新たな統治者になったことも発表したい。


だから領民に、


『1週間後。領都の中央広場にて、しん領主りょうしゅによる重大発表アリ』


との告知を、方々ほうぼうへ出しておく。


あとは演説の台本だいほんを考えておくだけだ。






1週間後。


昼。


晴れ。


領都りょうとの中央広場にて。


たくさんの人だかりが、中央広場に集まっていた。


『新領主による重大発表』を聞きに訪れた者たちだ。


私は用意された講壇こうだんのうえにのぼる。


エドゥアルトとフランカは、だんの下に待機させる。


登壇とうだんした私。


【拡声の魔石】を手にもって、演説を開始する。


「領都のみなさん、はじめまして。本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


私は告げる。


「わたくしは、新しい領主となったルチル・フォン・ミアストーンですわ。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、わたくしは、クランネル王国の貴族です。今後、ぜん領主りょうしゅにしてぜん大公たいこう・オーギュストに代わって、わたくしが、この領地を治めることになります。以後お見知りおきを」


ぱらぱらと、いくらかの拍手が起こった。


しかし、多くの民衆はくもった顔をしている。


クランネルからやってきた者が、新しい領主になるなんて、さぞ不安であろう。


私の演説の目的は、その不安をやわらげることにある。


「このたびジルフィンド公国は、クランネル王国と戦争をし、敗北――――クランネルの統治下とうちかに入りました」


私はさらに続ける。


「しかし、我々クランネル王国は、ジルフィンドの民をいたずらに苦しめるつもりはありません。戦争を仕掛けてきたことを、恨みに思ってもおりません。それはなぜか? この愚かなる戦争を仕掛けてきたのは、他でもない、前大公オーギュストだからです」


全ての責任はオーギュストにあると強調する。


「みなさんは、オーギュストの統治を素晴らしいと感じていたでしょうか? 多くの方は、苦しみを感じていたことかと思います。オーギュストの圧政や重税、そして軍による激しい弾圧と統制に、さぞ疲弊ひへいしてきたことでしょう」


そしてこうまとめた。


「つまり我々、クランネル王国も、あなたがたジルフィンドの民衆も、みな等しく、オーギュストの被害者なのですわ」


クランネルの民も、ジルフィンドの民も、加害者オーギュストからいじめられた被害者。


オーギュストこそ共通の敵であり、私たちは仲間である――――


そう強く呼びかける。


「ゆえにクランネル王国は、悪しきオーギュスト大公を討伐しました。そして、その圧政に苦しめられたジルフィンドの民を、新たなクランネル国民として受け入れるつもりです。あなたがたは、これから、クランネルの国民と同じ権利と生活を、得ることができるのです」


さあ、長い前振まえふりは終了。


ここからが本題だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る