第7章270話:アレックスと軍

ベアール将軍が尋ねてくる。


「なぜでしょう?」


「……お忘れでしょうか。わたくしは、アレックスの婚約者ですわ。将来は王妃になる予定です」


「……ああ」


とベアール将軍は納得する。


「アレックス殿下……か」


ベアール将軍は露骨に顔をしかめた。


私は苦笑する。


「くすくす。わたくしの将来の夫は、あなたにずいぶんと嫌われてしまったようですわね」


「いえ……そういうわけではありません」


とベアール将軍は否定したが。


明らかに建前である。


アレックスがネキア中隊長にしたことを考えれば、ベアール将軍が彼を嫌うのは当然だろう。


私は告げた。


「まあわたくしも、今回のことで婚約を見直すかもしれませんけれど」


「……さようですか」


とベアール将軍は、さして驚いたふうもなかった。


私はさらに告げる。


「ちなみに、戦勝せんしょうパーティーのおりに、女王陛下がおっしゃっていたことですが……アレックスは、厳しい処罰を受けるそうですわ」


「厳しい処罰」


「ええ。内容はわかりかねますが、なさ容赦ようしゃのない処断しょだんくだることは、想像にかたくありませんわね。なにしろ陛下ですもの」


私の言葉に、ベアール将軍が微笑んだ。


「だとしたら、ネキアの気持ちも浮かばれますな。……いえ、あいつは優しいヤツですから、むしろ殿下を心配するかもしれませんが」


「そのときは、心配などする必要はない、とお伝えくださいませ。今回のことは、アレックスの自業自得じごうじとくですもの」


と私は微笑みながら告げた。


そのときだった。


「その通りだ」


と横合いから声がした。


振り向くと、ミジェラ女王が立っていた。


どうやら話を聞かれていたらしい。


「女王陛下……ッ」


さすがに驚いたベアール将軍は、すぐさまひざまずこうとしたが。


「そのままでよい」


とミジェラ女王が手で制した。


さらにミジェラ女王が言う。


「アレックスの件に関して、軍部には大変たいへん迷惑めいわくをかけた。母親として、謝罪させてもらおう」


とミジェラ女王が頭を下げる。


「あ、頭をお上げください」


とベアール将軍が焦った。


女王に頭を下げられるのは、さすがにベアール将軍も動揺するようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る