第7章271話:婚約について

ミジェラ女王は頭を上げてから、告げた。


「アレックスには特別に厳しい処罰を用意する。追って通達するつもりだったが、お前たちには、その罰の内容を伝えておこう」


とミジェラ女王は前置きしてから、言った。


「アレックスは、半年間、ゾルトゥーク監獄かんごく収監しゅうかんさせるつもりだ」


「……!?」


「なっ……!」


私もベアール将軍も、驚愕した。


ゾルトゥーク監獄といえば、凶悪犯罪者きょうあくはんざいしゃばかりを収監している大監獄だいかんごくだ。


暴れがちな凶悪犯罪者を押さえつけるため、受刑者じゅけいしゃを厳しいルールで縛り付けている。


過酷な刑務所だと有名であり、監獄から帰ってきた者は『二度と戻りたくない』と語り、とうに生きることを誓うという。


ベアール将軍は言った。


「つまり……懲役刑ちょうえきけいす、ということですか。しかもゾルトゥーク監獄に……」


「その通りだ。もちろん王族ゆえに、前科者にするわけにはいかないので、表向きは『王子に監獄の見学をさせる』という名目で、収監させることになるが……囚人生活しゅうじんせいかつについては、他の受刑者と同じ扱いを受けさせるつもりだ」


王国で最も過酷とされる監獄にて、受刑者と同じ生活をアレックスに受けさせる……


私は素直に感想を述べた。


「容赦ありませんわね……」


「それぐらいのことをしなければ、あの馬鹿息子ばかむすこ性根しょうねは治らんだろう」


たった半年間の懲役刑。


しかし、ゾルトゥーク監獄の半年間なんて、想像を絶する長さだろう。


アレックス……南無なむ!!!


ベアール将軍が目礼をしながら、言った。


「しかし、きちんと処罰が下るのでしたら安心いたしました。教えてくださり、感謝いたします」


「ああ」


「では、私はこれで失礼します。ルチル様も、お時間をいただき、有難うございました」


とベアール将軍が挨拶をして、去っていった。


私と女王の二人だけになる。


女王が一拍いっぱくいてから、告げた。


「アレックスの件だが、お前は婚約破棄を考えているのだな?」


……どうやら、さきほどの会話を聞かれていたようだ。


まあここに至って、ごまかすつもりもない。


私はハッキリと肯定した。


「はい、そのつもりですわ」


「……まあ、今回のことがあったのなら仕方がない」


と女王は納得している。


本当は今回のことだけが、婚約破棄したい理由ではないのだが……


余計な口は挟まないでおこう。


「しかし婚約の撤回を発表する時期は、熟慮する必要がある」


と女王が告げた。


私はうなずく。


「……承知しておりますわ」


私とアレックスの婚約をなかったことにすること。


それは、政治的には極めて大きな波紋を呼ぶ。


クランネル王家とミアストーン公爵家が結びつかないことで、政治の情勢は大きく変わるだろう。


だからいきなり婚約破棄を発表するわけにはいかない。


関係者各位かんけいしゃかくいに説明してまわったうえ、おりを見て、婚約破棄を公表するべきだ。


「まだアレックスにも婚約破棄の件については話しておりませんし、一度、二人で話し合ってから、また改めて、陛下に報告をしたいと思いますわ」


「ああ、そうだな。そうしてくれ」


かくして私は、本格的に婚約破棄へと動き出すことになった。


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