第7章268話:代官について

「ああ、ところで」


私は、聖女に話しておきたいことがあった。


ゲームの主人公・ラクティアのことである。


ラクティアは将来的に聖女となる素質を持った女性だ。


しかし、正しく聖女となるためには、きちんと覚醒のための訓練を受けておかなければいけない。


いずれ来たるラスボス戦では、ラクティアの聖女としての力が必要になるだろう。


だから私が、裏でラクティアのことをサポートしておこうと思った。


「聖女さま。ラクティアという女性については、ご存知でしょうか」


「ラクティア……ですか。いいえ、存じ上げませんが」


「実は、その者は『聖魔導師』の適性職を持っておりますの」


「聖魔導師」


「はい。もちろん、聖魔導師の適性職があるからといって、必ずしも聖女として覚醒するわけではありませんわ。しかし、そのラクティアという女性には、光るさいがあると、わたくしは認識しておりますわ」


「なるほど。興味深い話ですね」


と聖女さまは関心を示す。


私は告げた。


「ええ。未来のクランネル王国をになう人材に育つ可能性がございますので、聖女さまも一度、会ってみてはいかがでしょうか」


「わかりました。心にとどめておきます。しらせてくださり、ありがとうございます」


「いえいえ」


これで聖女と話したいことは全て済んだ。


私は聖堂をあとにすることにした。






――――その2日後。


アリアが王都を訪れていた。


代官だいかんの件について相談したいと思っていたので、私を屋敷を訪問してきたアリアを、執務室しつむしつに通した。


さっそく話を切り出す。


「アリアもご存知のとおり、先日、わたくしは伯爵位はくしゃくいを得て、領主となりましたわ。ただ、わたくしはいろいろと忙しい身ですから、領主の仕事に従事するつもりはありません」


「ふむ」


「つきましては、領主の仕事を代行してくれる代官を探しておりますわ。どなたか、優れた方はいらっしゃらないでしょうか?」


と私は、述べる。


するとアリアはこのように述べた。


「領主の代官ですか……それでしたら、フランチェスカさんはどうでしょう?」


「フランチェスカさんといえば……ルチル商会しょうかい幹部かんぶの?」


「はい」


とアリアは肯定する。


以前に私は、ルチル商会で幹部会議かんぶかいぎをおこない、4人の幹部と会合した。


そのうちの1人がフランチェスカ。


フランチェスカ・レティーグラスであったと記憶している。


「たしか没落したレティーグラス侯爵家のご令嬢でしたわね」


「さようでございます」


「令嬢だから、政治にもけていると」


「はい。英才教育で政治についても学んでおられるようで、実際、政治において高い才能をお持ちです。その腕前うでまえを買って、商会の政治部門せいじぶもんを全面的に任せているぐらいですから」


「ふむ……」


「フランチェスカさんに関する資料をお持ちいたしましょうか?」


「そうですわね。お願いいたしますわ」


と私は答えた。


―――翌日。


アリアは、資料を用意してくれた。


その資料には、フランチェスカがおこなっている仕事について書かれている。


主に、政治や経済に関して、フランチェスカがどのような判断を下したか……ということを記した書類である。


確かに、書類の内容を見る限り、フランチェスカは政治的なセンスがずば抜けている。


(これなら代官を任せられるかもしれない)


と私は強く実感した。


アリアに告げる。


「とても良いですわね。フランチェスカさんに、代官の件について話しておいてもらえますかしら?」


「承知いたしました」


とアリアが応じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る