第7章266話:聖堂2

クランネル王国の聖女――――ユリール。


銀色の髪。


黄色い瞳。


160センチぐらいの身長。


神聖そうな法衣をまとっている。


遠目に見たことはあるが、こんなに近くで見るのははじめてだ。


もちろん会って話すのもはじめてである。


「聖女さま。ルチル様をお連れいたしました」


と大神官が声をかけた。


聖女さまは答えた。


「ようこそ、ルチル様。本日はご足労いただき―――――、ッッッッ!!」


あいさつの途中で、聖女さまは目を見開き、口をあんぐりとひらいた。


驚愕の目で、私のななよこの空間を見ている。


そこにいるのは――――シエラ様だ。


「な、なっ……!? あなたは、精霊……さま……!?」


聖女さまが驚嘆している。


シエラ様がつぶやく。


「あたしのことが見えているのね」


現在、シエラ様は他人には見えないように姿を隠している。


彼女を視認できるのは私だけのはずだ。


ところが聖女さまは、シエラ様の存在を認識した。


【聖女】という適性職であれば、精霊を視認することができるのかもしれない。


聖女さまの反応に、大神官が怪訝そうな顔をして尋ねた。


「聖女……さま? どうなされました?」


「そ、そちらに精霊様がいらっしゃるのです!」


「ええ!?」


と大神官が驚愕する。


「あ、あの……これは、どういうことなのでしょうか?」


と小声で私にエドゥアルトが尋ねてきた。


エドゥアルトも、突然のことに困惑している様子である。


私も、どう答えたものか悩んだ。


そのとき、


「はぁ……これは姿を見せるしかないわね」


シエラ様が、そう述べつつ、なんらかの魔法を行使した。


直後、シエラ様の身体が発光する。


その発光は、大神官やエドゥアルトにも見えたらしく、まぶしそうに目を細める。


やがて発光が終わった。


すると。


「な……あなたは……」


大神官が、シエラ様を驚愕の目で見つめている。


「……」


エドゥアルトも、シエラ様を見て、呆然としている。


どうやらシエラ様は、視認阻害しにんそがいの魔法を解き、誰の目にも見えるようにしたようだ。


私や聖女だけでなく、大神官とエドゥアルトの目にも、シエラ様の姿が映っている。


シエラ様が言った。


「あたしは精霊シエラ。錬金術を司っているわ」


「あ、あぁ……ッ」


と聖女さまが声をあげて、すぐさま、両膝りょうひざをついて、こうべを垂れた。


大神官もそれにならう。


エドゥアルトも片膝かたひざをついて、拝礼はいれいを示した。


……そうか。


精霊は、こういうふうに敬うのが普通だったね。


私はもう、友達みたいな感覚でシエラ様と接していたけど、聖女さまたちの反応が本来的には正しい。


シエラ様が言った。


「ラクにしなさい」


その命令で、聖女たちは、立ち上がる。


シエラ様が続けた。


「あたしは、ルチルと契約を交わした精霊でもあるわ」


「なっ!? せ、精霊さまが、ルチル様と!?」


と大神官が驚愕した。


「ええ。ルチルにはたぐいまれなる錬金術の才がある。だからあたしは、彼女がいつか錬金術の深奥にたどりつくと見込んで、協力してあげてるのよ」


「なんと……精霊さまが、ルチル様の錬金術を……」


と聖女さまが呆然としている。


エドゥアルトが言った。


「さすがルチル様です!」


さらに大神官が告げる。


「ルチル様は、国の英雄というだけでなく、精霊に見込まれた御仁でもあったとは。これはとんでもないことですよ」


聖女も同意するようにうなずいている。


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