第7章264話:寄進

一週間後。


私に対して、伯爵位を正式に授ける叙勲式じょくんしきがおこなわれることになった。


王城おうじょう


謁見の間。


朝10時ごろ。


私は女王の前で、片膝かたひざをついていた。


参列さんれつするのは、王国のお歴々れきれき


王族、大臣、貴族、高位聖職者こういせいしょくしゃなど。


ミジェラ女王は告げた。


「此度の戦争において、ルチル・ミアストーンは多大な貢献を果たした!」


さらに女王は続ける。


「ゆえに功績を讃え、伯爵位とフォンの名を授ける。以後、ルチル・フォン・ミアストーンとして、名にじぬはたらきを期待する」


おおせのままに」


と私は静かに答えた。


女王はさらに続けた。


「また、ルチルには所領しょりょうを授ける」


これはフォースター公爵領、クラヴァル辺境伯領、ジルフィンド大公領、イファールカ伯爵領などを統合した【ルチル領】のことだ。


「以後、領主として政務せいむに励むがよい」


「それについてですが、」


と私は口を挟んだ。


実は領地に関して、私は考えていたことがあった。


その考えを述べた。


「フォースター公爵領を【クランネル精霊教】へ寄進きしんしたいと考えておりますわ」


「……!」


クランネル精霊教とは、クランネル王国の国教である。


この国で【神殿】といったとき、クランネル精霊教のことをさす。


そして寄進とは、簡単にいえば、プレゼントすることだ。


「領地を、神殿へ寄進するというのか……?」


ミジェラ女王は驚いたように確認してきた。


「はい」


と私は答える。


ミジェラ女王だけでなく、周囲にいた者たちも、愕然としていた。


領地を神殿へとプレゼントする行為は、極めて異例。


少なくともクランネル王国の歴史においては、はじめてのことである。


しかも小さな領地ではなく、公爵領だ。


「り、理由を聞いても?」


とミジェラ女王は尋ねてきた。


私は答える。


「わたくしが戦争において多大な功績を残すことができたのは、ひとえに、大精霊さまのお導きのおかげかと存じますわ。ゆえに、クランネル精霊教があがたてまつっておられる大精霊さまに、感謝の意を捧げたいと思いましたの」


と述べたが。


もちろん建前たてまえである。


本音としては、4つも領地をもらっても大きすぎるし、管理が大変だろうということ。


そして。


クランネル精霊教に媚びを売っておけば、いざというときに神殿の力添ちからぞえを得られるだろうということ。


この世界で、一番敵に回しちゃいけないのは神殿である。


同時に、味方につけておいたほうがいいのも神殿だ。


ゆえに、公爵領をプレゼントすることで、神殿のご機嫌きげんどりをしておこうという腹だった。





この寄進は、のちに【ルチルの寄進】という名称で、歴史書れきししょしるされることになる。


神殿は、公爵領を寄進するというルチルの厚意に、いたく感激し……


今後、ルチルがおこなう活動を全面的にサポートするようになった。


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