第7章259話:パーティー2

そのとき私は、婚約の件について切り出そうかと考えた。


しかし、祝いの席で婚約破棄を申し出るのは、混乱が大きいかと思い、やめておいた。


その後、ミジェラ女王は、さんの雑談を交わしてから、私のもとを離れていく。


フランカが口を開いた。


「じょ、女王陛下……さすが、威厳がありますね」


どうやらミジェラ女王が話していたとき、フランカはかなり緊張していたようだ。


まあ、相手は女王……粗相そそうがあったら冗談抜じょうだんぬきで首が飛びかねないからね。


私は告げた。


「さて……お腹が空いてまいりましたので、料理を頂きましょうか」


「そうですね」


とエドゥアルトが同意する。


私たちは料理を皿に取っていく。


野菜と貝とプチトマトのリゾットだ。


なかなか色鮮やかな見た目であり、食欲をそそられた。


と。


そのとき。


ふいに、顔見知りの相手と目が合った。


フランカの父である。


目が合ってしまった以上、互いに無視するわけにはいかない。


フランカ父は私のもとへやってきた。


「ルチル様、このたびはご戦勝、おめでとうございます」


「あなたも」


と私は告げた。


フランカ父もまた、私たちと同様、今回の戦争には参加している。


ビシュケース家は軍の家柄だからである。


「娘がお世話になっております。戦争中、ご迷惑をおかけしたりはしませんでしたでしょうか」


「いえ。とても役に立っておりますわ」


「それなら良かった。……フランカよ」


「はい」


「これからも、しっかりルチル様のために働くのだぞ」


「はい、そのつもりです」


とフランカは答える。


そのとき私は、気になっていたことを尋ねる。


「ところで……あなたが召し上がっていらっしゃるのは、パンケーキではありませんの?」


「え、ああ」


とフランカ父は、恥ずかしそうに微笑んだ。


フランカ父が手にした皿には、パンケーキが乗っていた。


ルチル商会が作ったものである。


おそらくアリアとミジェラ女王が、今回の戦勝パーティーのために用意したのだろう。


「実は、ルチル商会のパンケーキを、一度でいいから食べてみたかったのです」


とフランカ父は言った。


私は告げる。


「パンケーキなんてデザートみたいなものですから、後で食べればよろしいのに」


「いいえ。パンケーキは、他の方々と取り合いですからね。今回のパーティーでは、一番人気のメニューですよ! ほら、あの通り」


とフランカ父は視線を向けた。


彼が示唆しさする先には、一つの料理に群がる者たちの姿がある。


どうやらあそこにパンケーキが置かれており、みんなで取り合っているようだ。


フランカ父は言った。


「実際に食べてみて、驚きました。このような素晴らしい食べ物は食べたことがありません。しかもルチル様がレシピを考案なされたのですよね?」


「ええ、まあ」


「ルチル様は、軍事のおいても飛び抜けた実力をお持ちですが、料理も素晴らしい。このパンケーキの味は、一生の思い出になりますよ」


大げさな……と思ったが、フランカ父はどうやら、本気でそう思っている様子だった。


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