第7章254話:離宮

この日は、王城の離宮りきゅうに宿泊することになった。


夜。


食堂で、立派なご馳走ちそう堪能たんのうしたあと、私は部屋に向かった。


離宮りきゅうの一室。


3階の部屋であり、家具としては、


天蓋つきのベッド。


ソファー。


テーブル。


椅子。


ここが私に与えられた個室である。


大窓おおまどからはバルコニーに出ることができる。


バルコニーにはテーブルと椅子が置かれており、城下町じょうかまちが眺められる。


王都では、現在、戦勝の祭り―――【祝勝祭しゅくしょうさい】が開催されている。


その活気かっきにぎわいが、ここまで伝わってくるようだ。


今夜は、王都中おうとじゅうの住民たちが、美味しいご飯を食べて、お酒を飲んで、夜を明かすのだろう。


「……わたくしも、一杯いっぱい、飲みましょうか」


と思った。


というわけで、部屋の外に控えるメイドに声をかける。


お酒を持ってこさせることにした。


ついでに楽師がくしも呼ぶ。


そのあいだに、アイテムボックスに保管していた牛乳を錬金術で加工し、チーズにする。


あとはアイテムボックスからプチトマトも出しておく。


このチーズとプチトマトをおつまみとすることにした。


さて。


メイドがお酒を持ってくる。


リュートを抱えた女楽師おんながくしがやってくる。


私はバルコニーのテーブルに着いた。


椅子に座って、お酒を飲み始める。


(ん……なかなかしぶいワインだね)


とてもよく熟成されたワインだ。


一般的に異世界のワインは美味しくないんだけど、このワインは美味しい。


ハイレベルなフルボディワインである。


苦味にがみ辛味からみがガツンときたあと、ほのかに甘味が広がる。


……まあ、さすがに離宮で出てくるワインだ。


低品質なわけがないか。


おそらく1本、300万ディリンはするワインだろう。


「もぐもぐ……んー!」


チーズとプチトマト。


そして濃厚な熟成ワイン。


素晴らしい。


優雅な味わいと香りが、心を満たしていく。


(夜空も綺麗だ……)


ふと私は空を見上げた。


ちり一つない夜天やてんに、燦然さんぜんときらめく星々ほしぼしが、宝石のごとくちりばめられている。


二つの月が蒼々あおあおとした月明かりで、地上を照らしている。


絶景。


記憶に残る夜景やけいだ。


(楽師の音楽も、素晴らしいね)


リュートの奏でる音色が、夜の空気に溶けていく。


そんな、美しい景色と音楽を楽しみながら、私はワインをくいっとあおる。


こうして優雅な夜が更けていった。

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