第6章245話:戦死

ナナバールが死んだ。


そのことにより、ナナバール軍が戦意を喪失した。


しかし、ここにナナバール軍を放置しておくわけにはいかない。


ここはブレコウォールの手前。


通路を進んだ先はクランネル軍の背後だ。


ゆえに戦意を失っていようが、ナナバール軍は虐殺する。


私は部下に命じて、ナナバール軍を徹底的に殺しつくした。


「さて……ナナバールの首を持って、本陣に戻りますわよ」


と私は部下の者たちに命令した。






そこからの展開は速かった。


私はクランネル本陣に戻り、ナナバールが死去したことをベアール将軍に伝えた。


「な、なんと、ナナバール将軍を討伐したのですか!?」


とベアール将軍が驚愕した。


私は、アイテムバッグに保管しておいたナナバールの首を提示する。


「この通りですわ」


「……なるほど。さすがルチル様、お見事です」


とベアール将軍が納得した。


それからベアール将軍が、にやりと笑う。


「それでは、ジルフィンド軍の連中に、知らせてやらねばなりませんな――――ジルフィンドの英雄が死んだということを」


なかなかあくどい笑みだ。


ベアール将軍は私からナナバールの首を受け取った。


さらに【拡声の魔石】を取り出す。


そして戦場の隅々すみずみまで聞こえるような大声で、ナナバールの死を盛大に叫んだ。


「これを見よ! われらの大将、ルチル様が! ナナバール将軍を討ちとったぞ!!」


ベアール将軍がさらに告げる。


「ジルフィンドの英雄・ナナバールが死んだぞ! ものども、復唱ふくしょうせよ!」


ベアール将軍が、ナナバール将軍の首を見せびらかすような提示しつつ、クランネル兵たちに復唱を要求した。


クランネル兵たちは一瞬、困惑をあらわにした。


ベアール将軍が、ふたたび告げる。


「復唱せよ―――――ナナバールが死んだぞ!!!」


再度、ベアール将軍に言われ、クランネル兵たちは状況を理解した。


応じて、叫ぶ。




「「「「ナナバールが死んだぞ! ナナバールが死んだぞ! ナナバールが死んだぞ!」」」」




敵に聞こえるように。


何度も何度も復唱する。


そしてベアール将軍が、ナナバール将軍の首を槍に突き刺し……


ジルフィンド軍に、ナナバールの生首なまくびを見せびらかした。


ベアール将軍が叫ぶ。


「見ろジルフィンド軍!! お前たちの英雄、ナナバールが死んだぞ!!」


部下の兵士たちも復唱する。


「「「「ナナバールが死んだぞ! ナナバールが死んだぞ! ナナバールが死んだぞ!」」」」


将軍ナナバール。


ジルフィンド軍を何度も勝利へと導いてきた英雄。


その戦死がもたらす衝撃は、ジルフィンド兵の心を容赦なく折っていく。


クランネル軍は何度も何度も、ナナバールの死を連呼する。


戦いながら、クランネル兵たちはジルフィンド兵に言い聞かせる。





「はははは! お前たちの英雄は死んだぞ!!」


「何度でも言ってやるよ!! ナナバールは死んだ!!」


「英雄ナナバールは戦死! 英雄ナナバールは戦死!」


「ナナバールが討ち死にだぁあああ!!!」


「俺たちのうしろを見ろ!! ベアール様が、ナナバールの首をかかげてるぜ!!! ぎゃははははは!」





ナナバールが死んだことで、クランネル兵たちの士気がぐんぐん上がっていく。


逆に、英雄を失ったことで、ジルフィンド兵たちの士気は壊滅的だ。


「そ、そんな……ナナバール様が」


「ジルフィンドの英雄が……負けるなんて……」


ナナバールが死んでも、まだ兵数へいすうはジルフィンド軍の上であるが……


それを有効に指揮できる将軍たちも、みな、戦死している。


ゆえにジルフィンド兵たちは、恐怖と混乱と敗戦の予感に、少しずつ戦意を喪失し……


武器を捨てて、逃亡を始める者が続出した。


「逃がすな!」


とベアール将軍は命じる。


「クランネルの地をらした不届ふとどものは、国の果てまで追いかけて虐殺ぎゃくさつせよ!」


「「「「オオオオオオオォォォォォォー!!!」」」」


歓声が爆発する。


クランネル兵たちが意気揚々いきようようとジルフィンド軍に襲いかかる。






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